【The Evangelist of Contemporary Art】アートフェア東京2021について考える(前編)

【The Evangelist of Contemporary Art】アートフェア東京2021について考える(前編)

 久しぶりにアートフェア東京(13)を訪れた。しばらくご無沙汰だった訳はいずれ説明するが、中止の昨年を除けば何年ぶりだろうか? そのため、今年のフェアの印象がかなり異なったとしても不思議ではない。

 だが、フェアは新型コロナの影響で一変したといっても過言ではない。その際立った特徴とは、NHKのテレビのニュースで報道されたように、ギャラリーのブースの6割が現代アートで占められていることだった(残りの4割が、工芸、伝統、モダンで構成されている)。一昔前、セールスや展示環境の悪さから参加を見合わせるギャラリーがあったのとは雲泥の差である。今年は、私のよく知る現代アートのギャラリーがかなり参加していた。

 このようにフェアの風向きが変わったのは、コロナウィルスのパンデミックが逆に幸いしているようだ。現代アートに一般の人々の関心が集まっている。世界的に見れば、2周(20年)遅れくらいの流行現象だろうか(21世紀初頭の欧米のアートバブルを想起されたい)。

(1)会場風景
(2)会場風景
(3)会場風景

 過去1年以上に渡って全世界を覆っている憂鬱なコロナ禍のなかで、人々は外出を制限され在宅の仕事で家に留め置かれる(ステイホーム)時間が長くなった。その結果、気分転換に旅行に出かける代わりに、心地よい住処を求めて室内にアート作品を飾りたいというマインドが醸成される。その際、若い人を中心に現代アートに目が向けられ、ちょうど1年前コロナウィルスのアウトブレーク後から徐々に作品が売れるようになった、と若手ギャラリーのオーナーから聞いたことがある(投資目的で現代アートを購入する人は、日本では少ないのではないか? その理由は、後述するように日本のマーケットの基盤がまだ脆弱だからである)。

 風が吹けば桶屋が儲かる式の物事のシンプルな因果関係だが、いずれにせよ現代アートが繁栄することに越したことはない。それが、コロナ禍で去年中止に追い込まれたアートフェア東京にも如実に現れ、現代アートのスペースの割合が大幅に増加することになったのだ。

 私は、以前からアートフェア東京のご都合主義的なやり方に疑問を呈してきた。古美術、サブカル、ポスターが混じるごちゃごちゃの無節操ぶりを批判したのだ。今年の会場を見渡した限りでは、確かに全体的にポストモダンの軽い現代アートにシフトしている(とはいえ、この軽さは中途半端である)。しかしなぜ、今頃そうなのか? しかも、出展された日本のポストモダンの作品は、欧米のポストモダンの物真似か、身も蓋もない過去回帰か、ポップの擦りきれた焼き直しか、反抗心など微塵もないストリートアートで、世界のアートフェアではメインとは言えない売り専用のサテライトクラスの代物である。

 他方で、本物や最先端のアート志向、たとえば巧みにコンセプトを隠したポリティカルな作品(45)や、偶然のノンスタイルの落書きを絶妙にアレンジするスタイリッシュな絵画(67)がある。それら二つの傾向を両極端として、東京国際フォーラムの会場の仕切られたブースの同一平面上に、数多の作品が詰め込まれていた。それが、2021年のアートフェア東京の構図である。

(4)柳幸典@ANOMALY
(5)雨宮庸介@SNOW contemporary
(6)ジャデ・ファドジュティミ@タカ・イシイギャラリー
(7)布施琳太郎@SNOW contemporary

 そうであれば、来場者は乱雑に並べられた作品の価値を見定めたり選んだりすることに戸惑ってしまうのではないか。もちろん、彼らが予め買うものを決めて会場を訪れているとすれば、迷いはないのかもしれないが。

 さてフェアの成否はともかく、現在は新型コロナ禍で仕方がないが、本格的なコロナ明けに備えてグローバルマーケットと接続できる態勢を整えておくことが重要だろう。そのためには国内のマーケットのさらなるレベルアップが図られなければならない。売れさえすればよいというバブル的発想ではなく、欧米のアートとクォリティ的に拮抗できるアートシーン作りが急務である。(後編に続く

(文・写真:市原研太郎)

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Kentaro Ichihara
美術評論家
1980年代より展覧会カタログに執筆、各種メディアに寄稿。著書に、『ゲルハルト・リヒター/光と仮象の絵画』(2002年)、『アフター・ザ・リアリティ―〈9.11〉以降のアート』(2008年)等。
現在は、世界の現代アートの情報をウェブサイトArt-in-Action( http://kentaroichihara.com/)にて絶賛公開中。

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