【The Evangelist of Contemporary Art】アートフェアのなかのアートフェア、Frieze London 2023(その3) 市原研太郎(文・写真)

【The Evangelist of Contemporary Art】アートフェアのなかのアートフェア、Frieze London 2023(その3) 市原研太郎(文・写真)

前章から続く

4. 若手ギャラリーのセクション+α
 鑑賞2日目。残りの若手・新進ギャラリーのセクション(1~8)へ。
 Frieze Londonで唯一低評価が下される点といえば、このセクションである。会場のマップでは、エントランスから向かって右手のエリア(1のフェア・マップ参照)。すべてが若手ではないが、エマージング(新進)を特集したFocus(9、マップではHの表記の区画)を含めて、新興勢力のギャラリーが大半を占めている。その若手ギャラリーが、Frieze Londonで冷遇されてきたという経緯がある。もちろん意図して不親切な待遇を受けた訳ではないと思うが、いつからかエントランスから右手のスペースに、なぜか人気がなくなった。

 若手ギャラリーを、中堅から老舗、ビッグおよびメガまでフェアの本体(エントランスの左手のエリア)から分けて面倒をみない、とかつてFrieze Londonに参加した日本のある若手ギャラリストは憤慨していた。以来、そのギャラリーは本フェアに参加していない。そうした冷遇に由来するのだろうか、過去に本体より興味深いギャラリーのブースはあったが、今回は若手コーナーにめぼしいギャラリーは皆無だった。端的に、どのギャラリーのどの作品にも既視感が拭えない。少なくともエマージングなギャラリーが注目される条件として、展示作品は来場者に既知ではなく未知であることが不可欠なのだが、作品に既視感があるために、二度目から飽きることが作品との初対面で起きる。未知のアートとの遭遇は慣れない奇異感を覚えるのが通常だろう。この心理的反応は、フェアに初見参のギャラリーに与えられた虎の子の特権であるはずだが・・・。

 その特権が過去の遺物になってしまった。現在、それを完全に失った若手・新進ギャラリーのセクションは、フェアの本体に対して果たしてきた悪しきコマーシャリズムを異化する解毒剤の役割をも手放してしまう。ある意味歴史必然的なこの既視感(新しいものはない)を前置きにして、あえてFocusから印象に残ったギャラリーを選ぶなら、以下の5軒(10~43)である。

 本章の終わりに、Frieze Londonの会場(44)近くの野外に置かれた“Frieze Sculpture”(45)の展示作品(46~67)をアップする。フェアの期間中だけとはいえ、リージェンツ・パークの恵まれた美しい環境で人々がアートの息吹を思い切り呼吸できるのは、欧米のアートを支える公私ともの政治の底力のおかげである。(次週に続く

(文・写真:市原研太郎)

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Kentaro Ichihara
美術評論家
 1980年代より展覧会カタログに執筆、各種メディアに寄稿。著書に、『ゲルハルト・リヒター/光と仮象の絵画』(2002年)、『アフター・ザ・リアリティ―〈9.11〉以降のアート』(2008年)等。現在は、世界のグローバルとローカルの現代アート情報を、SNS(Twitter: https://twitter.com/kentaroichihara?t=KVZorV_eQbrq9kWqHKWi_Q&s=09、Facebook: https://www.facebook.com/kentaro.ichihara.7)、自身のwebサイトArt-in-Action( http://kentaroichihara.com/)、そしてTokyo Live & Exhibits: https://tokyo-live-exhibits.com/tag/%e5%b8%82%e5%8e%9f%e7%a0%94%e5%a4%aa%e9%83%8e/にて絶賛発信中。

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