【The Evangelist of Contemporary Art】アートフェアのなかのアートフェア、Frieze London 2023(その1) 市原研太郎(文・写真)
1.イントロダクション: Frieze Londonとは?
2023年、ヨーロッパ、アメリカ、アジアで行われているアートフェアFrieze、その3連チャンのトリに訪ねたFrieze London(1、October 11-15)は、同年のNew York(May 17-21)、Seoul(September 6-9)で開かれたFriezeとは別格のフェアだった。
さすが元祖Friezeと感嘆させられた。イギリスで発行されている先鋭的な美術雑誌「Frieze」の名称を冠したフェアが初めてロンドンで開催されたのが、2003年。今年で20年を経過したフェアだが、その20周年の歴史が長いか短いかは、フェアを構成する現代アートが国際的に注目され認知されたのが1990年代後半であったこと、またアートフェアのFriezeがその勢いに乗って発展してきたことを考慮すれば、自ずと答えが出るだろう。
ともあれ、スイスのバーゼルで行われている古株のフェアArt Baselと並んで、21世紀前半の現代アートの発展とマーケットの拡大に貢献してきたFriezeは、新型コロナのパンデミック以前の現代アートのグローバル化の中核を担うまでになった。それゆえ、Frieze Londonのサテライト的なフェアとして位置づけられるFrieze New Yorkも去年から開始されたSeoulも、本家のLondonとは比較できない規模と内容になることは当たり前だろう。
以上が、私がロンドンを別格と形容した意味である。このFriezeを最後に訪ねたのが2017年なので、新型コロナのパンデミックを挟んで、しばらくぶりの再訪となった。その間、イギリスはブレグジットと呼ばれるEUからの離脱という政治的決断をした。その影響があると予想したが、ロンドンは以前となんら変わることのない佇まいを見せていた。だが円安の影響もあいまって、現在のロンドンの物価はニューヨークと双璧の異常な高騰ぶりだったのだ。
2.Frieze London 2023: 会場のエントランス近辺にあるギャラリーをめぐる印象
Frieze Londonの会場は、例年通りリージェンツ・パークのなかにある。そのエントランス(フェアのマップ、2とエントランスまでの通路、3)から入場し、エントランスに面して目立つブース(4の拡大マップ参照。以下のギャラリーも同様)は、メガギャラリーの1つGagosian(5)のDamien Hirstによる余裕の個展(6〜8)だった。
そのGagosianに隣接するSadie Coles HQ(9〜14)は、ロンドンを代表するギャラリーの1つにのし上がっている。ロンドンの現代アートの世界で、その功罪はどうなのかと問いかけたくなるのは、私だけか?
さらにその隣、ロンドンの東の場末にスペースを構えるCarlos/Ishikawa(15〜19)は、すでに若手ではなく中堅になっていた。それは、新型コロナによる世界の一時的な分断の効果を思い知らされるフェアの光景だった。
エントランス前の広場を囲んでメガギャラリーの両脇を固めるのは、ベルリンの大手Esther Schipper(20~25)、とエコロジーをテーマとしたFrieze Artist Award(26~31)のブースの裏にあるロサンジェルスの中堅のDavid Kordansky Gallery(32~35)である。
Carlos/Ishikawaの奥には、最近台頭が著しいニューヨークの韓国系ギャラリーTina Kim Gallery(36〜39)の大手の広さに引けを取らないブース。
さらに通路を隔てて、多文化主義の老舗Lehmann Maupin(40〜45)が、多文化主義のポリシーを放棄する
エントランス周辺に軒を並べるロンドンのギャラリーでローカルと呼べるのは、Frith Street Gallery(46〜52)? Hollybush Gardens(53〜59)? Herald ST(60〜64)? それともEmalin(65~69)?
最後にGoodman Gallery(70〜76)の作品は、ギャラリーの出自のアフリカを伏せているように見える。もちろん現今のブラックアートブームに棹さすように、サバイバルを賭けた戦略的な配慮(次の章を参照)だろう。
(文・写真:市原研太郎)
■今までの市原研太郎執筆のブログ https://tokyo-live-exhibits.com/tag/%e5%b8%82%e5%8e%9f%e7%a0%94%e5%a4%aa%e9%83%8e/
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