【The Evangelist of Contemporary Art】5月に行われた3つのアートフェアについて【3】 Frieze New York 2023の解剖学: Frieze New Yorkは裕福なファッション・ピープルを引き寄せることができるか?
Independentが行われた1週間後、同じニューヨークでFriezeが開催された。
本文【2】で説明したように、新型コロナウイルスのパンデミックでヨーロッパから参加するギャラリーが激減し、Independentは不可抗的にグローバルから遠ざかった。それに対してFriezeは、2021年よりマンハッタンの最新再開発地区のハドソンヤードにある文化センターThe Shedに会場を移し、Independentと同じ月に開催するようになった。今年はさらに短く、Independentと1週間のインターバルをおいて行われることになった。このスケジュールによって、Friezeを選択したヨーロッパやアメリカのギャラリーがIndependentからごっそり離脱した。その結果、Independentは意図したわけではないが、ドメスティックなギャラリーにほぼ占められ、幸運にもマンネリ化は免れたのだが、そのためにローカル色が強まったのである。
さて【3】の主役である
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しかし、今年5月のニューヨークのアートウィークを相対的に比較するなら、Friezeが、White Cube(36~39)、Victoria Miro(40~46)、Esther Schipper(47~51)、Thaddaeus Ropac(52~58)など各国の大手ギャラリーを擁したメインのグローバル・フェア、Independentが、メインを補完するよりレベルの低い作品を取り扱うローカルなギャラリーを集めたサテライトのフェアとして位置づけられるだろう。だが、【2】と【3】で詳述しているように、事態はそのように単純ではない。
今年のFrieze New Yorkの際立つ特徴は、Friezeのグローバル化とメイン・フェア化ばかりではない。会場を見渡せば一目瞭然だが、新自由主義の格差社会の拡大を反映した現代アートの環境のゴージャス化とファッション化が生じている。まずゴージャス化は、The Shedの2階、Gagosian(59~64)、David Zwirner(65~70)、Pace(71~76)、Hauser &Wirth(77~80)といったメガギャラリーを中心とするギャラリーのブースの布置に如実に現れている。2階の天井がもともと高い(81)上に、Friezeがホームページでアナウンスしているように、新型コロナ禍の余波で今年になってもパンデミック以前の参加ギャラリー数に達していないことが原因の、会場の1ブース当たりの面積がとにかく広く(82~84)、それらをつなぐ通路の幅も大きい(85)。それゆえ、来場者はゆったりとリラックスして展示作品を鑑賞することができる(86、87)。
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これが、2019年オープンの会場の新しさと相まって、アートフェアを今までになくゴージャスに装わせる。オシャレと言えばIndependentの代名詞のような謳い文句だが、このオシャレに輪をかけた贅沢なオシャレ=ゴージャスなFriezeに、Independentは完全にお株を奪われてしまった。これがまた、前者のメイン(グローバル)と後者のサテライト(ローカル)の間の差を広げる。
ところで、フェアがゴージャスになることが良いとは限らない。それが裏目に出て、そこに飾られる現代アートの作品が、購買者の愛玩物に見せかけた投資(儲け)の対象に成り果てるかもしれない。それにともない、入場者の階層に目立った変化が起きる。富裕層らしき来場者がマジョリティを占めることで、彼らの身なりや外見がアートフェアの様相を変える。とくに女性が着けるコスチュームやアクセサリーのブランドやモードが、会場の雰囲気を一新させるのだ。
このようにフェアがファッション化すると、展示作品が富裕層向けの表現を露骨に模索しているように思われてくる。それと呼応するかのように会場の最上階は、カフェとバー(88)に混じって高級時計(89)やコスメティック(90)のデモンストレーションのコーナーがあり、裕福な顧客を獲得しようとPRしていた。
Frieze New Yorkは、19世紀にパトロンの貴族が主催したサロン展のようなゴージャス系アートフェアとして生れ変わろうとしている。その狙いは、ファッションやライフスタイルを絡めてサロン化したフェアを、アートから滲み出るアウラに浸すことである。新自由主義経済に取り込まれたニューヨークのオシャレなファッションライフにとってアートは必須でしょ!というわけだ。ファッション・ピープルとコレクター(とその若き予備軍)にターゲットを絞った新生Friezeのサバイバル戦略は奏功するだろうか?
そうした目線で会場を見回すと、このファッショナブルな環境に似つかわしくない来場者に気づく。彼らは、この雰囲気に違和感を覚え、嫌気がさして次回から来なくなるかもしれない。また、コレクターかどうかは不明だがアジア人の単身の男性と、各世代の韓国人の男女の姿が目立った。韓国人に関しては、去年9月にソウルで開かれたFriezeの影響が絶大であることは間違いない。東アジア(ソウル)で始まったグローバルな現代アートフェアの効果がさっそく現れたのだろう。その意味で言えば、ソウルはニューヨークのアートシーンをロールモデルにしている。
ちなみにFriezeに参加した韓国のギャラリーでは、フランスのJean-Michel Othonielの作品を展示したKukje(91~93)より、Hyundai(94)が韓国文化に基づいたYoo Geun-Taekの絵画(95~97)を出展して気を吐いていた。
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(文・写真:市原研太郎)
■今までの市原研太郎執筆のブログ https://tokyo-live-exhibits.com/tag/%e5%b8%82%e5%8e%9f%e7%a0%94%e5%a4%aa%e9%83%8e/
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