【The Evangelist of Contemporary Art】5月に行われた3つのアートフェアについて【2】 Independent Art Fair: ニューカマーのギャラリーが輝いていたIndependentは、マンネリからの脱出に成功したのだろうか?
2023年5月、【1】のTaipei Dangdaiが行われた台北から、日程が重なるニューヨークのIndependentへ。
まず前提として確認したいことは、ニューヨークで開かれるアートフェアIndependent(1)に参加するギャラリーの展示作品が、ポストモダンを超越しているということである。対して、現在トレンドとなって東京のマーケットを賑わしている日本人アーティストの作品は、ようやくポストポップのポストモダンに辿り着いたところである。このニューヨークと東京の間の歴史的断絶は否定しがたい事実である。
ところがIndependentは、参加ギャラリーの閉鎖的な選考方法により、そのメンバーが固定されるというマンネリの罠につねに晒されてきた。だが、新型コロナのパンデミックは、主催者にこのマンネリ化の危険性を反省する機会を与えたようだ。なぜなら、グローバルに拡大していた参加ギャラリーが、ローカルごと(ヨーロッパ、アメリカ、アジア、etc.)に切断されるというアンチ・グローバルな皮肉な事態を招いたからである。新型コロナが猛威を振るっている間は、もっぱら国内に縮小する方向で選考を絞ったせいで、逆説的に新たな若手ギャラリーの発掘に成功したのだ。新型コロナ明けの2023年のフェアもそれが奏功して、選ばれた国内中心の新人ギャラリーに掛かる作品のクオリティはかなり良い(後に詳述)。
その上で商品(作品)を新鮮に保つために、Independentはマンネリ化の陥穽から逃れたのかと問いたい。今まで辛うじてマンネリを免れてきたのは、フェアの常連であれ新人であれ、前述のように参加ギャラリーの出展作品のレベルが高かったからである。しかし、新型コロナ禍が過ぎ去れば、その予想外の新陳代謝も停止する。早急に手段を講じなければならない。
その一番手っ取り早いやり方は、パンデミックに無関係に常時ギャラリーの入れ替えを算段することである。その意味では、初参加の新人ギャラリーは以前から会場の1階のブースに集中して与えられてきた。それらのギャラリーは、カッティングエッジ(最先端)という点で共通して興味深かった。とはいうものの、1回で入れ替わるギャラリーの記憶が残ることは滅多にない。
それとは反対に、上の階(5~7階)の常連組のギャラリーはマンネリ化を免れない。最先端はつねに最先端でなければならないという宿命がある。だが、それを維持することは困難である。Independentは、コミッティのギャラリーの独断でフェアのメンバーが決められ、その主要なギャラリーが仲間内で固定されているので、忽ちマンネリ化する。新型コロナのパンデミック以前のこのフェアは、1階のように風通しを良くする若手ギャラリーの入れ替えはあっても、上の階のコアとなるギャラリーの布置はほぼ不変だった。
ところが新型コロナ禍で半ば強制的にフェアの全体に異動が生じた。アメリカ以外のギャラリーが参加しなく/できなくなり、その代わりに国内のギャラリーによって占められた。そして新型コロナ後の2023年、Independentに常連のギャラリーが戻ってきていない。その理由は、IndependentのライバルのFriezeが、1週間のインターバルをおいてIndependentとペアになるスケジュールが組まれたからである。Independentに常連として参加してきたヨーロッパのギャラリーが、Maureen Paley、Peres Projectsを除いてこぞってFriezeに参加している。かつ今回、FriezeとIndependentに重複して出展しているギャラリーは、ニューヨークのCanadaとロンドンのStephen Friedmanのみである。
その結果、Friezeがグローバルでメイン、Independentがローカルでサテライトのアートフェアの様相を呈することになった。
では、具体的に各階のブースの模様を紹介しよう。
[1階](2~17)
Independentは、この階で毎回新しいギャラリーを登場させてきた。めまぐるしく新しい風を迎え入れる窓だったのだ。だが、変化はこの階止まりで、上の階は常連の指定席となり、いつの間にかギャラリーが固定し淀んだ空気が漂うことになった。それでもIndependentに招待されるギャラリーは、若手であっても実力がある。そのクオリティの高さで、カッティングエッジの賞味期限は5、6年ある。その間にグローバルなアートシーンで地歩を固めることができれば、そのギャラリーに中堅へと移行する資格が生まれる。だが、それ以降はIndependentに居続ける限り、マンネリ化の停滞感がまつわりつく。
それに気づいたのだろう、フェアの主催者が上の階の中堅ギャラリーの一部の入れ替えを図ってきた。しかし、一部の手直しでは解決できない状態に立ち至ったとき、幸か不幸か新型コロナのパンデミックが発生し、海外からフェアへの参加が激減した。それにともない空白を埋めるために、国内からギャラリーが調達されるようになったのである。
2023年のコロナ明けのアートフェアでも、そのダメージから完全に復活したわけではない。だからだろうか、かなり思い切った入れ替えを断行したようだ。だが、コロナから完全に回復した折には、またぞろメンバーが固定され、マンネリの危機に陥るのではないだろうか。確認しえた限りで新入りのギャラリーを5~7階で列挙し、同時に展示作品をアップしてみよう。
[5階](18)
注目されるニューカマー(新人)のギャラリーは、以下の通り。
Deli Gallery(19~21)、Nina Johnson(22~24)、Magot Samel×Temnikova & Kasela(25~27)、Lubov(28~30)。それにともない、Delek Eller Gallery(31~33)といった常連ギャラリーも、グレードアップしている。その他について寸評すれば、Adams and Ollman(34~36)は、ポストモダンの特徴が繊細さならば、このギャラリーの展示作品の繊細さは、ポストモダンを超える力を有している。Gareth Greenan Gallery(37~39)とFleisher/Ollman(40~42)は正攻法の誠実なギャラリーだが、現代アートの限界を突破できない。というのも、2つのギャラリーはモダニズムから出発してポストモダン以後を射程に収めているからだ。それではジャンプする幅が広すぎて、ポストモダンの沼にはまり出て来られない。
[6、7階](43)
6階のニューカマーでは、Ross+Kramer(44~46)、Tara Downs(47~49)、Vito Schnabel Gallery(50~52)、Harlesden High Street(53~55)、Night Gallery(56~58)、7階はSans title(59~61)、Higher Pictures(62~64)が目立った。これらの新人ギャラリーは、新鮮でまだ飽きられていないのかもしれないが、レベルが高いと感じる。
これまでIndependentのアメリカの新人と若手、総称すればエマージング・ギャラリー、そしてフェアの核となる中堅ギャラリーのマンネリ化について語ってきたが、彼らのレベルは途轍もなく高い。これぞ、欧米の底力である。日本はおろかアジアが束になって掛かっても対抗できない。それが歴史の蓄積に由来するアートパワーであり、アートフェアに現れるのは、それが醸し出すアウラなのだ。
(文・写真:市原研太郎)
■今までの市原研太郎執筆のブログ https://tokyo-live-exhibits.com/tag/%e5%b8%82%e5%8e%9f%e7%a0%94%e5%a4%aa%e9%83%8e/
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