【The Evangelist of Contemporary Art】Frieze Seoul 2023―ポスト・コロナのアートフェアとは?

【The Evangelist of Contemporary Art】Frieze Seoul 2023―ポスト・コロナのアートフェアとは?

 2023年秋、とはいえ深刻な気候変動によって夏の暑さがしつこくまつわりつく9月の韓国のソウルで、注目のアートフェアが開催された。その名称は、Frieze Seoul(1~3)。Friezeといえば、現代アートの専門雑誌Friezeによって2000年代初頭ロンドンで開始され、現在に継続すると同時に、その世界戦略がニューヨーク、ロサンジェルスへと拡張されて、去年よりアジアのハブとしてソウルで開催されることになった。このFriezeが世界的に注目される理由は、それが現代アートのマーケットのグローバル化に貢献しているからであり、香港で開催されてきたもう一方のグローバル化の推進力であるArt Baselが、香港の民主主義の弾圧による環境の悪化に伴い欧米の一部のギャラリーが撤退するなか、アジアにおけるその代替として急浮上したからである。

 さて、アートフェアの会場は、江南区にあるコンベンション・センターのCOEXである。まず、会場に入りスペース全体(4~9)を見渡して、「はて、ここはどこ?」と自問した。世界中の若手、中堅、老舗、大手、メガのギャラリーが集まる展示会場に飾られた作品が、おしなべてクオリティの高さを顕示していたからである。今年7月に横浜で行われた国際的なアートフェア、Tokyo Gendaiを本サイトで取り上げたことが恥ずかしくなるくらいに、レベルが違った。これほどのレベルのフェアは、アジアで香港以外にお目にかかることはなかったのである。

 これが、Frieze Seoulがグローバルであることの明らかな徴である。唯一気づいて残念だったのは、メガと呼ばれるギャラリー(VIPプレビューでは人だかりができて展示作品を撮影できなかった。11~13)が、安易にブルーチップの巨匠クラスのアーティストの作品を飾っていたことである。それだけで、Friezeの会場を浸していた心地よい緊張感が緩んでしまったのだ。

 この欠点を除けば、欧米のトップクラスのアートフェア(Frieze London & New York、Art Basel Basel & Miami)と比較して、まったく遜色ない。いや、それらを凌駕しているかもしれない。この事実をもって、アジアのアートマーケットの中心は香港からソウルに移ったと宣言してよいだろう。

 このソウルのフェアには、欧米のフェアに出展している常連のギャラリーが軒を並べているのだから、出展アーティストのメンバーは変わらないはずである。だとすれば、内容的に欧米に肩を並べることはあっても、凌駕するところまでは行かないのではないか? にもかかわらず欧米のトップフェアを凌駕すると評価できた訳は、この時期世界のフェアでソウルが都市としてもっとも重視され、参加ギャラリーは同じアーティストのより優れた作品を持参したのかもしれない。

 そうでなければ、ギャラリー・ブースの配置に欧米でのフェアとは異なる工夫が施されていて、その効果が覿面に現れたのではないか。欧米のフェアでは、メガを中心に大手、老舗、中堅、若手が同心円状に配置されて、アート界でのヒエラルキーが可視化される。それが会場の中心から周辺へと拡大していくような構図を形成しているのが通常のアートフェアの成り立ちである。それが今Frieze Seoul(14~25)で、ギャラリーのブースがグローバルなヒエラルキーを覆して、ランダムにフラットに配置されていた。区画によってメガと大手が集まる所もあったが、それは会場の端のほうだった。このギャラリーの平等な配置によって、既存のヒエラルキーが暗黙裡にはらむ抑圧の軛が外され、それぞれのギャラリーの展示作品の潜在的な力が解き放たれて、各作品が生き生きと輝いているように見えたのではないか。

 さすがにFocus Asia(26~34)と名付けられた新人ギャラリーのコーナーは、個展形式で1か所にまとめられていた。だが、そのコーナーは会場の隅ではなく、中央を占めていた。その新人ギャラリーが提示するアーティストの作品が、どれもカッティングエッジのスリリングな表現だったことを付け加えておこう。

 最近のマンネリ化した世界のアートフェアにしては珍しい、高揚した雰囲気のなか、日本の参加ギャラリーの展示も引き立って見えた。というより日本のギャラリー(その一部を紹介する。35~59)の実力=役割が、グローバルなギャラリーシーンでようやく露わになってきたのだろう。

 現代アートのフェアのステージが、コロナ危機を脱してステップアップしたことを如実に示すFrieze Seoul 2023だった。

(文・写真:市原研太郎)

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Kentaro Ichihara
美術評論家
 1980年代より展覧会カタログに執筆、各種メディアに寄稿。著書に、『ゲルハルト・リヒター/光と仮象の絵画』(2002年)、『アフター・ザ・リアリティ―〈9.11〉以降のアート』(2008年)等。現在は、世界のグローバルとローカルの現代アート情報を、SNS(Twitter: https://twitter.com/kentaroichihara?t=KVZorV_eQbrq9kWqHKWi_Q&s=09、Facebook: https://www.facebook.com/kentaro.ichihara.7)、自身のwebサイトArt-in-Action( http://kentaroichihara.com/)、そしてTokyo Live & Exhibits: https://tokyo-live-exhibits.com/tag/%e5%b8%82%e5%8e%9f%e7%a0%94%e5%a4%aa%e9%83%8e/にて絶賛発信中。

 

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