W'UP!★6月1日〜8月13日 若林奮 森のはずれ/6月1日~7月2日 MAU M&Lコレクション:絵画のアベセデール 武蔵野美術大学 美術館・図書館(小平市小川町)

257.0×414.8×506.3cm(部屋状部分のサイズ)武蔵野美術大学 美術館•図書館所蔵 撮影 山本糾
2023年6月1日(木)〜8月13日(日)
若林奮 森のはずれ
本展の見どころ
1. 彫刻家・若林奮の1980年代の代表作《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》を3人の彫刻家が監修となり修復、約30年ぶりに展示。
2. 《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》、《Daisy I》全10点、《振動尺》I~IV、《The First White Core》I~IIIなどの1980~90年代の大型彫刻を、吹き抜け空間を中心に展開。
3. ドローイング、関連するマケットや小品、参考資料など約100点を合わせて展観し、若林に内在した思考の痕跡を探る。


(前略)自分の部屋の中に森をつくることを考えていた。
……どこか一ヶ所に立って自分の把握する空間、言いかえれば自分が所有できる空間の内部と、その大きさを知り、その範囲を示す境界をどのように決定していくかに多くの注意を向けていた。
現実的に植物や土などに関連しながらの作業でなくても、以前から私は自分が自然の一部であることを確実に知りたいと考えていた。その確認のために様々なものを観察し、彫刻や絵をつくることが必要であった。(後略)
1986年3月(若林奮)
若林奮「森のはずれで——所有・雰囲気・振動」『へるめす』第7号1986年6月、岩波書店
本展の概要
自身と周縁世界との関わりをめぐる思索を内包した作品により、戦後日本の彫刻を牽引した若林奮(1936–2003)。その作品は一見すると寡黙で非情緒的な形態ではあるものの、自然や距離、時間、空間、表面、境界など、我々を取り巻く普遍的な事象を捉え、没後20年となる今もなお、私たちが考え、向き合うべき多くを語りかけてくれます。
本展では、若林が武蔵野美術大学在任時、学内にある工房の一部をそのまま彫刻化した「鉄の部屋」を含む《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》(1981–84年)を、約30年ぶりに再展示します。本作は若林が触知あるいは所有できる空間を「部屋」として作り出し、境界や範囲を具体的に示すことで、自身を軸とした周縁の自然への思索を深め、彫刻観を拡張した点で、極めて重要な作品です。
さらに《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》と《Daisy I》A~J全10点(1993年)を一続きの空間に展開します。植物や自然の観察、考察をめぐり生まれたこの2作品が相対することで、活動中期から後期にかけて色濃く表れる、若林彫刻の核といえる自然や風景をめぐる諸相に改めて立ち返り、若林が世界をどのように知覚し、そこで見出した概念をいかに彫刻化したのかを考えます。
加えて、自身と対照との距離を測る尺度として、1970年代以降若林彫刻に通底する概念となる《振動尺》I~IV(1979年)、80年代終わりから若林にとって重要な素材のひとつとなる硫黄を用いた《The First White Core》I~III(1992年)や《Sulphur Drawing》シリーズ(1990年ほか)など、関連する作品も合わせて、当館の吹き抜け空間を中心に展示します。また、作家の夥しい思索の一端に触れるべく、ドローイングやマケット、小品、資料約100点を展観し、若林に内在した思考の痕跡を線や言葉、イメージの中に探ります。
自分自身を含めて、自然という存在を精緻に観察することにより、若林は世界をどう知覚し、思考したのか。若林が思索を重ねたここ武蔵野の地で、想像力の源泉ともいえる「森のはずれ」を端緒に、若林彫刻の意義を再考します。
主な出品作品
《振動尺I》、《振動尺II》、《振動尺III》、《振動尺IV》1979年 すべてDIC川村記念美術館所蔵

1973–74年に文化庁芸術家在外研修員として、パリを拠点に旧石器時代の遺跡を訪れた若林は、遺跡の周縁の洞窟や地層、何重にも描かれた洞窟画など数万年かけて形成された「重複しつつ失われていく風景」に、旧石器時代の人々と自身の間にあるつながりや時間を感じ取ります。この経験を経て、積み重なってゆく不可知な事象を一層意識した若林は、自然を一対象としてではなく、自らを含んだ世界を認識する対象として、彫刻化することを試みるようになりました。その意識下で制作された「振動尺」と題された連作は、自身の手と前方にある対象の表面との水平方向の距離を振動で捉えることにより計る原器であり、1970年代後半からその後の若林彫刻を貫く表現原理となります。
《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》 1981–84年

1970年代の一連の思索を経て制作された本作では、「鉄の部屋」の内部に「振動尺」が据え置かれています。 空間を鉄壁で仕切り「内側」を作り出す一方で、部屋全体を鉛で覆い境界を曖昧にすることで、「振動尺」は水平方向から四方へと広がり、その視点は自身が所有できる空間領域へと向けられます。 また鉄の部屋の周辺には、鉛のキューブや板が植物の象徴として配置されることで、若林の自然認識が具体的な形態として現れるとともに、「外側」が生まれます。 この点から《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》は「振動尺」による距離という不可知な認識の問題に加え、範囲・領域、内側・外側、境界・表面などの若林彫刻を措定する概念が含まれているといえます。「森のはずれ」は、全ての若林彫刻において通底する原器的要素を含んだ試論的彫刻、あるいは自らを含んだ自然や風景そのものの具現化の第一歩として捉えられるかもしれません。
※《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》は2022年11月、所蔵者であったイケダギャラリーより寄贈を受け、武蔵野美術大学 美術館•図書館のコレクションとなりました。
《Daisy I-A》、《Daisy I-B》、《Daisy I-C》、《Daisy I-D》、《Daisy I-E》、《Daisy I-F》、《Daisy I-G》、《Daisy I-H》、《Daisy I-I》、《Daisy I-J》 1993年
すべてWAKABAYASHI STUDIO所蔵

地面から直立する茎を彷彿とさせる、人の背丈ほどある角柱を基本構造とし、頂部には花粉のごとくベンガラや胡粉が容れられています。さらにその可憐な名称も相まって、作品は植物そのものの構造を内包していることを想像させます。鉄板で覆われた角柱内部、容易に視線の届かない頂部は、植物の上下への伸張を想起するようで、そこには触覚や想像を含む視覚などが含まれているでしょう。それまで犬や自分自身の視点であった水平軸は、重力に逆らい成長する植物のような垂直軸へと展開していきます。「Daisy I」は1970年代以降、若林が主たる観察対象としての「自然」を知覚し、彫刻化し続けたその変遷を考える上で極めて重要な作品といえます。
《The First White Core I》、《The First White Core II》、《The First White Core III》 1992年 すべてWAKABAYASHI STUDIO所蔵

1980年代後半から作品におけるひとつの原風景として、綿工場の火事でみた焼け焦げて直立し黒色化した綿の固まりが、その物質の姿として作品を思考する源泉となります。「The First White Core」は、木製の基壇の上に、石膏の固まりが直立した形態です。この石膏部分は、焼けた硫黄の固まりを作品化した《遠硫化庭》(1989年)において、硫黄を鋳造したときに用いた銅板を、もう一度、石膏の鋳型として使用し作られています。銅板に残された硫黄の姿が、作品の表面として石膏と混じり合いないながら白いマッスに転位します。またI、II、IIIともに同じ構造になっていますが、その形状は自然物を組み合わせたように、意図せず物質の存在性に委ねた形態となっています。石膏鋳造という彫刻技法を用いながらも、自然現象によって現れる物質の本性を、限りなく作用として、有機的に作品表現に取り込んでいます。

若林奮(わかばやし・いさむ)
1936年東京府町田町生まれ。1959年東京藝術大学美術学部彫刻学科卒業。1975年武蔵野美術大学共通彫塑研究室助教授に就任し、80年教授、84年退任。鉄を主な素材とし、緻密な観察と省察にもとづく固有の彫刻観、自身と周縁世界との関わりをめぐる思索を内包した彫刻作品により、戦後日本の現代彫刻を牽引した。1973年神奈川県立近代美術館、1987年東京国立近代美術館、2002年豊田市美術館など個展多数。1980年代にヴェネチア・ビエンナーレ日本館に2度出品し、海外でも個展を重ねるなど、国内外より高い評価を得た。2003年の没後も各地で個展が開催され、今なお若林の彫刻観は人々を魅了し、鮮烈な印象を残す。
若林奮 森のはずれ
会 期 2023年6月1日(木)~8月13日(日)
会 場 美術館展示室2・4・5、アトリウム1・2(東京都小平市小川町1-736)
時 間 11:00~19:00(土・日曜日、祝日は10:00~17:00)
休館日 水曜日
入館料 無料
主 催 武蔵野美術大学 美術館•図書館
特別協力 WAKABAYASHI STUDIO
助 成 芸術文化振興基金
監 修 袴田京太朗(武蔵野美術大学 造形学部油絵学科教授)、伊藤誠(武蔵野美術大学 造形学部彫刻学科教授)、戸田裕介(武蔵野美術大学 共通彫塑研究室教授)
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/20684/
関連イベント
トークイベント1
日 時 7月1日(土)17:00〜18:30(16:30開場)
会 場 美術館ホール ※入場無料/先着順(予約不要)/直接会場へお越しください。
出演者 吉増剛造(詩人)
聞き手 袴田京太朗(本展監修者、彫刻家、本学油絵学科研究室教授)
トークイベント2
日 時 7月29日(土)15:00〜16:30(14:30開場)
会 場 美術館ホール ※入場無料/先着順(予約不要)/直接会場へお越しください。
登壇者 酒井忠康(世田谷美術館館長)、水沢勉(神奈川県立近代美術館館長)
イベント3
《所有・雰囲気・振動——森のはずれ》内部特別観覧(完全予約制)
日 時 6月17日(土)、7月8日(土)、7月22日(土)、8月5月(土)
各日13:00〜15:00(予定)
※30分ごとに6名まで予約可能。入室時間はお一人5分程度。
※6月3日(土)よりご予約開始(予定)
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2023年6月1日(木)~7月2日(日)
MAU M&Lコレクション:絵画のアベセデール
「アベセデール」は仏語でABCD、入門書という意味を併せ持ちます。AはAtelier(アトリエ)、BはBalance(均衡)、CはCouleur(色彩)など、AからZに至る多様な項目のもと、当館の油絵を中心とした作品約50点をご紹介します。絵画を語り、思考するためのいくつもの糸口を提示することで、コレクションの新たな魅力と、絵画の持つ豊かな世界を実感する機会となることに期待します。

概要
当館は大学に属する美術館として、教育・研究に資することをひとつの目的としながら、半世紀以上にわたり活動を続けてきました。そのなかで集められた作品群、とりわけ約440点からなる絵画コレクションは、教員や卒業生、その影響関係にある作家によるものが多くを占め、本学の教育の幅広い射程を示すかのように、多彩な様相を見せています。
タイトルにある「アベセデール」は仏語でABCD、入門書という意味を併せ持ちます。本展は、入門書として絵画の本質を広範に拾い上げることはかないませんが、AはAtelier(アトリエ)、BはBalance(均衡)、CはCouleur(色彩)など、絵画を語り、思考するためのいくつものキーワードによって、当館のコレクションを紹介するものです。本学の教育における関係性、時代や技法といった大きな括りからは少しだけ離れて、ときに描かれた当初のコンテクストをいったん保留にしながらも、多様な視点のもとに作品を並置することは、あらためて個々の作品の姿を見つめ直すひとつのきっかけとなるでしょう。
あらかじめ定められたAからZの音素の連なりにその流れを委ねながら、作品と向き合うための視点、いわば思考の起点となるヴァリエーションを提示すること、それこそが本展の意図するところといえます。絵画を語るためのいくつもの糸口を探る試みが、コレクションの新たな魅力と、絵画の持つ豊かな世界を実感する機会となることに期待します。

展示構成
本展では、AからZまでの複数の項目のもと、約50点の作品を紹介いたします。項目には、「Couleur(色彩)」「Ligne(線)」「Main(手)」「Structure(構造)」「Terre(地面、土地)」「Vague(波)」など、絵画が内包する基礎的な要素からそうでないものまで、個々の作品と向き合い、考えるためのいくつもの視点を設定しました。細分化された項目の連続によって、展覧会全体を貫く堅固な物語を構築するのではなく、さまざまなイメージが空間に並置されることによってさまざまな語りが発生し、共存する場としての展覧会を組み立てます。

主な出品作品
日本の抽象絵画の先駆的存在である山口長男や村井正誠、1000点以上の作品が当館に収蔵されている柳瀬正夢の代表的な油彩画のほか、教授退任を期に寄贈をうけた近年の収蔵作品など、幅広い年代の作品が並びます。また油彩画に限らず、帝国美術学校で教鞭を執った服部有恒の日本画、ジャスパー・ジョーンズ、エリザベス・マーレイの版画、麻生三郎や毛利武彦の素描などもあわせて展示します。さまざまなキーワードのもと、大型の代表作だけでなく、これまで展示する機会の少なかった小品へ同様に光が当たる点も、本企画の特徴といえます。
加えて本展では、本学の前身である武蔵野美術学校の頃より長らく教員を務め、絵画教育に大きな功績を残した、三雲祥之助の作品を多く紹介します。没後、学内では彼の名を冠した奨学金制度が制定され、またその作品の大半は当館へと寄贈されました。本企画を通して、新鮮な眼差しで彼の作品を見つめ、その魅力を再発見する場となれば幸いです。

出品作家(一部のみ記載・生年順)
服部有恒(1890-1957)、柳瀬正夢(1900-1945)、三雲祥之助(1902-1982)、山口長男(1902-1983)、村井正誠(1905-1999)、森芳雄(1908-1997)、横地康国(1911-1990)、藤井令太郎(1913-1980)、麻生三郎(1913-2000)、佐藤真一(1915-1982)、毛利武彦(1920-2010)、赤穴宏(1922-2009)、松樹路人(1927-2016)、中川美智夫(1928-2008)、藤林叡三(1928-1996)、ジャスパー・ジョーンズ(1930-)、エリザベス・マーレイ(1940-2007)ほか
MAU M&Lコレクション:絵画のアベセデール
会 期 2023年6月1日(木)~7月2日(日)
会 場 美術館展示室3(東京都小平市小川町1-736)
時 間 11:00~19:00(土・日曜日は10:00~17:00)
休館日 水曜日
入館料 無料
主 催 武蔵野美術大学 美術館•図書館
監 修 赤塚祐二(武蔵野美術大学 造形学部油絵学科油絵専攻教授)
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/20683/
関連イベント(予定)
本展監修者によるギャラリートーク
日時:未定(会期中の木曜日を予定)
本展監修者である赤塚祐二とゲスト(本学油絵学科教授)によるトークイベント。
※詳細は決まり次第、当館webサイトにてお知らせいたします。
武蔵野美術大学 美術館・図書館 2022年展覧会スケジュールのお知らせ
生誕100年 大辻清司フォトアーカイブ(仮)
会 期 2023年9月4日(月)~10月1日(日)
会 場 展示室3・4・5
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/20681/
当館では、大辻が残したフィルム原板やプリント、掲載誌、蔵書などをもとにアーカイブを構成し、15年にわたって研究を重ねてきた。本展は、研究の軌跡、とりわけフィルム原板のつぶさな検証によって得られた視座を軸に、写真家・大辻清司の真髄に接近すると同時に、アーカイブ活用の在り方、その先に何を見出すことができるのかを模索するひとつの試みとする。
大浦一志―雲仙普賢岳/記憶の地層
会 期 2023年9月4日(月)~10月1日(日)
会 場 展示室1・2、アトリウム1・2
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/20680/
1991年6月3日、多くの人命を奪った長崎県雲仙普賢岳の大火砕流。殉職した新聞記者のカメラに残った1枚の写真に突き動かされ、大浦一志は30年にわたり被災地域と東京を往還し、灰土に埋もれた民家跡から被災物を掘り起こし、記録し続けてきた。身体を通して「自然の脅威と人間の営み」に向き合う大浦のフィールドワークを紹介する。
西田俊英―不死鳥
会 期 2023年10月23日(月) - 11月19日(日)
会 場 展示室3・4、アトリウム2
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/20679/
日本最大級の70メートルに及ぶ巨大日本画に挑むため屋久島移住した西田俊英が森の懐で受けた感動やインスピレーションを壮大なスケールで描いた《不死鳥》。本展では、この作品を核に、西田の原点となる少年時代の作品から、インド留学を経て、森羅万象を神とする日本人の心で、風景や動物、人物や花を愛情深く精緻な筆致で描いてきた画業の軌跡を追う。
助教・助手展2023 武蔵野美術大学助教・助手研究発表
会 期 2023年12月4日(月)~12月23日(土)
会 場 展示室2・4・5、アトリウム1・2、第10講義室
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/20678/
研究室の一員である助教・助手は、本学の教育の一端を担う一方で、作家、デザイナーなど幅広い領域で活動を展開する。彼らの多彩な表現が一堂に会する本展は、企画運営も助教・助手自身が携わり、各専門分野を生かしながら特色ある展覧会を作り上げる。
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