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【Art News Liminality】光の回廊で遊ぶ:Art Osaka 2025

【Art News Liminality】光の回廊で遊ぶ:Art Osaka 2025

 現代美術をコレクションする拡張されたアートフェア、「ART OSAKA 2025」が6月5日(木)~9日(月)の日程で開催されている。「ART OSAKA」は国内の現在進行中のアートフェアで最も長い歴史を持ち、若手から中堅アーティストの動向が見られる場として親しまれてきたという。Galleriesセクション(中之島)とExpandedセクション(北加賀屋)の2拠点で開催され、両会場ともに光に満ち溢れた回廊を歩きながら遊んでいるかのような喜びと驚きを感じられるだろう。

■宇宙的な浮遊感を感じさせるExpandedセクション(北加賀屋)

 恒例となった感のあるクリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場跡地)での大型作品・インスタレーションに特化した展示では、19組の作家によるサイトスペシフィックな作品を前に歩きながらアートフェアの世界観を一身に感じることができる。

オノ・ヨーコ《FLY》(1963/2025、小山登美夫ギャラリー)
オノ・ヨーコ《FLY》(1963/2025、小山登美夫ギャラリー)

 まずは1階にあるオノ・ヨーコの《FLY》(1963/2025、小山登美夫ギャラリー)は、3つのはしごからなるインスタレーションとポストカードの指示書にある「飛ぶ用意をして来る事」という言葉によって、これから始まるアートフェアをどのように見るかということを問いかけているかのようだ。指示書に応じて飛ぶためにはしごを選ぶとして、そのはしごの高さから見える風景は人それぞれに異なるだろうことが予感される。アートフェアのどの作品に出遭い、そしてコレクションに加えるのかという決意を観客に迫ってくるかのようにも思える。

髙橋穣《装置 #1》(2023、Marco Gallery)
髙橋穣《装置 #1》(2023、Marco Gallery)

 髙橋穣の《装置 #1》(2023、Marco Gallery)は、直径4.7メートル、総重量1トンを超える巨大な回転構造体に作家自身がパフォーマーとして介入し、自身の身体の重みと動作のみで構造全体を回転させるインスタレーションとして、重力という見えない力の偏りによって「運動」が生まれることを感じさせてくれる。アイザック・ニュートンが木から落ちるリンゴを見て思いついた「万有引力の法則」、そして旧約聖書のアダムとエヴァがリンゴを口にしたことで楽園から追放されることになる「禁断の果実」を思わせるリンゴの木が回転する構造体のなかに組み込まれている。自然と知性のあいだで揺れ動く重力や権力の装置は、目の前の風景が力に応じて変わって見えることを教えてくれる。

河合政之《natura:data》(2025、MORI YU GALLERY)
河合政之《natura:data》(2025、MORI YU GALLERY)

 河合政之の《四元素+natura:data》(2025、MORI YU GALLERY)は、暴走する電子データが人智を超えた偶然的な要素を孕んで、刻一刻と変化する色や形、音を生成する《四元素》と自然のなかに現れるデータの現象を発見する《natura:data》からなるインスタレーション作品だ。旧造船所でかつて船が作られていたときに起こっていたこと自然現象として捉えると、火と土が出合って鉄となり、船が造られ、水と風、そして星々が輝く夜空のなかを進んでいったという四元素の物語が浮かび上がる。自然現象をデジタル/アナログのビデオイメージとして表現するパフォーマンスは、人知れず配置されたナム・ジュンパイクの《Orwell, -oh well- It's only -1983》へのオマージュとなるだろうか。

中村亮一《a study of identity》(2025、KOKI ARTS)
中村亮一《a study of identity》(2025、KOKI ARTS)

 中村亮一の《a study of identity》(2025、KOKI ARTS)は、第二次世界大戦時の日系アメリカ人の肖像を用い、日米の間で揺れる複雑なアイデンティティを表現している。異なる文化や国を横断するなかで生じるアイデンティティの揺らぎや、複雑な社会構造への理解を深めようとするなかで表現される越境的な人々の群像は、フォトエマルジョンという操作を介して、歴史を超えた存在として見る人に未来へと向かう力強い意志を伝えてくれるかのようだ。

AXL LE《デジタル・エデン》(2025、gallerychosun)
AXL LE《デジタル・エデン》(2025、gallerychosun)
サシャ・スタイルズ《ハート・マントラ》(2025-、BEAF)
サシャ・スタイルズ《ハート・マントラ》(2025-、BEAF)
四方謙一《A Dollection of Your Eyes》(2024、H-art Beat Gallery)
四方謙一《A Collection of Your Eyes》(2024、H-art Beat Gallery)

 AXL LEの《デジタル・エデン》(2025、gallerychosun)は、ポストWeb3時代、AIドローン「Eve One」が崩壊したデジタルユートピアを描く物語として、技術進歩の裏に潜む資本主義と支配構造に批判的な眼差しを向ける。サシャ・スタイルズの《ハート・マントラ》(2025-、BEAF)は、詩人・AIアーティストによる生成アートインスタレーションであり、リアルタイムで生成する詩がプロジェクションされ、制作オードやプロンプトを刻んだ円形ミラーが配置されることで、テクノロジーが感情表現を拡張し、言語と意識の未来を照らし出そうとする。また、四方謙一の《A Collection of Your Eyes》(2024、H-art Beat Gallery)は、「場」を知覚する媒体として世界を知るための装置として、場所と観客に働きかけることで世界を拡張し更新しようとする。それぞれの作品からは、デジタル技術によって拡張されたデータの宇宙に迷い込んだかのような壮大なスケールが感じられる。

那須佐和子+下田悠太《構造の詩学》(biscuit gallery+AWASE gallery)
那須佐和子+下田悠太《構造の詩学》(biscuit gallery+AWASE gallery)
福岡道雄《ピンクバルーン》(1968、FINCH ARTS)
福岡道雄《ピンクバルーン》(1968、FINCH ARTS)
ユ・ソラ《日々を重ね、》(2022、TEZUKAYAMA GALLERY)
ユ・ソラ《日々を重ね、》(2022、TEZUKAYAMA GALLERY)

 那須佐和子+下田悠太《構造の詩学》(biscuit gallery+AWASE gallery)は、下田悠太の建築構造物と那須佐和子の絵画から起こる相互作用のなかで拡張する空間あるいは絵画の可能性を模索しようとする。福岡道雄《ピンクバルーン》(1968、FINCH ARTS)は、彫刻の強さや男性性からの脱却を図り、ため息を彫刻素材として捉えようとしたものだという。また、ユ・ソラ《日々を重ね、》(2022、TEZUKAYAMA GALLERY)は、災害や事故などで突然失うこともある日常や些細な日々に目を向け、白く柔らかい布に黒い糸で刺繍を施し、日常の風景を記録しようとする。それぞれのインスタレーションは浮遊感をもって会場を歩く人の知覚を拡張し、世界をどこか新しい目線で見られるようにしてくれるだろう。

橋本絵里奈《対擁》(2017、ギャラリーMOS)
橋本絵里奈《対擁》(2017、ギャラリーMOS)
伊藤航《Sports festival》(2025、GALLERY KOGURE)
伊藤航《Sports festival》(2025、GALLERY KOGURE)

 橋本絵里奈の《対擁》(2017、ギャラリーMOS)は、光を抽象的な「記憶」として集積することで無限の広がりを見せ、空間全体に再構成し、物理的な存在を超えた新たな次元を想起させようとする。また、伊藤航の《Sports festival》(2025、GALLERY KOGURE)は、造船場のドラフティングルームを背景に、近代産業の象徴である歯車と人を組み合わせて運動会をテーマにしたインタレーションを展開しようとする。光のエネルギーが溢れる抽象画と静謐さを感じさせる労働と遊戯の群像の対比からは、ビッグデータの流動のなかで競争を楽しむように迫られる人々の今日的な状況を読み取れるかもしれない。

■光と風景の描写が際立つGalleriesセクション(中之島)
 国内外44軒のギャラリーがブース形式で展開する大阪市中央公会堂 3階 (中集会室・小集会室・特別室)では、ギャラリスト独自の審美眼によって選ばれた現代アートを中心とした作品が一堂に介する。

TEZUKAYAMA GALLERY 門田光雅 / 御村紗也 / 作元朋子
TEZUKAYAMA GALLERY 門田光雅 / 御村紗也 / 作元朋子
TEZUKAYAMA GALLERY 山本真実江
TEZUKAYAMA GALLERY 山本真実江

 TEZUKAYAMA GALLERYは、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの現代作家を取り扱い、近年は日本の若手作家を中心に積極的に紹介し、欧米などの海外アートフェアにも積極的に参加している。門田光雅のスピード感のある筆触と強度のある描線、御村紗也のやさしくもぬくもありのあるグラデーション、山本真実江のスデンドグラスをどこか思わせる陶などが見られる。

EUKARYOTE 磯村暖 / 香月恵介 / 菊池遼 / 畑山太志 / 山口聡一
EUKARYOTE 磯村暖 / 香月恵介 / 菊池遼 / 畑山太志 / 山口聡一

 EUKARYOTEは美術の発生より紡ぎ続けてきた現代の有形無形、その本質であり、普遍的な価値を持つ作品や作家を積極的に取り上げ、残そうとしている。菊池 遼の軽やかにして精妙な点描画、畑山太志の鮮やかな色彩のうねりが心地よい絵画、磯村 暖のAI生成による写真と多層的な立体構成を用いた「家系図」など、意欲的な作品群が並ぶ。

カペイシャス:松本国三 /平田安弘
カペイシャス:松本国三 /平野喜靖

 capaciousは大阪府内の障がいのある人の作品を現代美術のマーケットに紹介するプロジェクトとして、現代アートの歴史や言葉による縛りなど既成の枠組みを取り外し、作品を純粋に鑑賞することで広がる可能性を追求している。平野喜靖の手描きのフォント風文字がたゆたうポップな印象や松本国三のスクラッチ風に描きつけられる増殖の予感からは、制作活動という堆積する時間のなかで生まれる力強さと温もりが伝わってくるだろう。

FINCH ARTS 長谷川由貴 / 谷本真理
FINCH ARTS 長谷川由貴 / 谷本真理
gallery Unfold 陸 瑋妮 / 李 盈蓁 / 李芷荺
gallery Unfold 陸 瑋妮 / 李 盈蓁 / 李芷荺

 FINCH ARTSは、コマーシャルギャラリーとして、アートを通じて生の豊かさを提供し、文化活動を継続的に支えるインフラストラクチャとして機能することを目指している。長谷川由貴の植物群に重なるネオン風の文字、谷本真理の瞑想のように絡み合う動植物群のモチーフには、混沌から湧き溢れる生命の気配が感じられる。

 gallery Unfoldは台湾を中心にアジアの現代アートを国際的なシーンで紹介することに力を入れており、コラボレーション、探求、研究、そしてキュレーションを通じて、アジアの現代アートを発信している。陸 瑋妮のシルクスクリーンで紡ぎだされる軽快な遊び心、李 芷荺のどこか懐かしさを感じさせる都市風景の存在感、李 盈蓁の陶片を継ぎ合わせたかのようなフラジリティ(繊細さ)はどれも新鮮さをもって楽しめる。なお、FINCH ARTS+gallery Unfoldという共同出展のスタイルは、さまざまに背景の異なる国内外、あるいは世代を超えたギャラリーの連携を促進するという観点から見ても興味深い。

Gallery Shilla Chang Seo Park
Gallery Shilla Chang Seo Park

 Gallery Shillaは、現代の芸術を展示するアートスペースとして、未来志向で前衛的なアートシーンを促進するために、一貫して展覧会を開催してきたという。Chang Seo Park、Sang Yuel Yoon、Moon Pil Shimの作品群には、端正ながらも強度のあるポスト・フォーマリズムの諸相を見ることができるだろう。

 中之島ではScreening Programも用意されており、実験映画、ビデオアート、現代美術の歴史を振り返りながら現在の映像表現を捉えようとする「〈うつること〉と〈見えること〉—映像表現をさぐる:60年代から現在へ」、1998年に森村泰昌が総合プロデューサーとして美術の総合的な空間を「こころとからだの美術浴」として構想したプロジェクトのドキュメンタリー「テクノテラピー」の特別上映会が見られる。

p.s.

上田 要《北加賀屋の空気》 / フロレンタイン・ホフマン《ラバー・ダック》
上田 要《北加賀屋の空気》 / フロレンタイン・ホフマン《ラバー・ダック》

会場写真

 Expandedセクションが開催されているクリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場跡地)の付近では、Super Studio Kitakagaya特別公開&展覧会「Open Studio 2025 Summer」も2025年6月6日(金)~8日(日)開催されている。あわせて訪れたい。

 以上 文・撮影:F.アツミ(Art-Phil)

■F.アツミ 他のブログ https://tokyo-live-exhibits.com/tag/f-atsumi/

F. Atsumi
編集・批評
クリエーション・ユニット Art-Phil、アート・ギャラリー/イベント・スペース monade contemporary|単子現代。都市経営修士。編集/批評を通してアート・哲学・社会の視点から多様なコミュニケーション一般のあり方を探求するとともに、キュレーター/アートマネジャー/ギャラリストとして現在の状況に応答するための展示活動を行っている。 https://www.art-phil.com/

W'UP★6月7日〜8日 ART OSAKA 2025 Galleriesセクション 大阪市中央公会堂(大阪市北区)/6月5日〜6月9日 Expandedセクションクリエイティブセンター大阪(大阪市住之江区)

ノート
https://note.com/live_exhibits/n/n104f1bceab1c

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  1. by karachan

    毎年参加するイベントになったART OSAKA、今年で3年目となり、中野信子さんのトークセッションがあったので、これはぜひ聞きたいと思い、伺いました。《ハート・マントラ》の作家であるサシャ・スタイルズさんとリモートでやりとりする中で印象的だったのは、中野さんが「マントラ」という言葉は、仏教における短い言葉、経典という意味で、それは詩(ポエム)の形式で、伝える力があると解説、具体的にサシャさんの宗教的背景を聞かれると、恥ずかしそうに明言を避けていたのが、日本人的だな思いました。時間が短く、もっと脳科学的な観点からのアート論が聞きたかったです。

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