W'UP★8月22日~9月19日 坂本夏子「知らない誰かと交信するために描く」/9月26日~11月8日 日高理恵子展 小山登美夫ギャラリー六本木(港区六本木)

i'll painting..., #2 2026 oil on canvas
194.0 x 162.0 cm ©︎Natsuko Sakamoto
坂本夏子「知らない誰かと交信するために描く」
会 期 2026年8月22日(土)~9月19日(土)
会 場 小山登美夫ギャラリー六本木(東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F)
開館時間 11:00~19:00
休館日 日月祝、展示替え中 ※夏季休廊:2026年8月9日(日)~17日(月)
入館料 無料
ホームページ https://www.tomiokoyamagallery.com/
坂本夏子(1983年熊本県生まれ、東京都在住)は、独自の制作方法によって絵画の可能性を探求し続けてきたアーティストです。2008年名古屋での初個展にて、少女たちがタイルに囲まれた迷宮のような風景を発表。それから次々と変化していく彼女の作品に共通しているのは、絵画のなかに起こる一つの連続性です。一貫して絵画という媒体そのものに向き合い、描くことを、既存のイメージを表出するための行為ではなく「未だ無い空間にふれるための方法」と捉えてきました。制作の過程で生じる「間違い」を積極的に作品に受け入れながら、予測を超えた絵画空間を生み出しています。
本展で発表される新作について、坂本は「描き終わった絵画のひとつひとつの絵の具が、その位置を確定しないままにキャンバスの上にいられるなら、未来に向かっていくつものコミュニケーションをひらくことができるのではないかと想像する」といいます。こうした絵画との向き合い方は、近年、記憶を失いつつある父とのコミュニケーションとも重なります。父から送られてくる、意味を読み取りきれない文字列のメッセージ。それらは一見すると誤入力のようでありながら、確かに誰かへ向けられた意思を含んでいます。坂本は、その読み取りきれない発信に向き合う姿勢を、絵画との関係にも見出しています。作者の意図を超えて振る舞う絵画は、未来の自分や、まだ出会ったことのない誰かから届くメッセージのようでもあります。

今回の展覧会に際し、アーティストから寄せられたステートメントを以下に全文掲載します。
絵画を描くときは、あたりまえのことだけれど一手一手進めてゆくしかない。生きてゆくときに1日をとばしては生きられないのと同じで。
すべての一手が分岐点になる。それはよく考えるとすごくおそろしい。一手前に戻ることができないなら、あり得たかもしれないたくさんの行き先を無くすことだから。そして、絵画は間違いかもしれない選択もそこに閉じ込めてしまう。
これまでのように、描くためのルールや方法をあらかじめ決めておけば、すこし心づよい。わたしは絵画を「すでにあるイメージを表出するためのものではなく、未だ無い空間にふれるための方法」だと考えてきた。わたしが知っている世界に導かれたり、経験にもとづいた選択ばかりをしたりしないために必要なのが、描くルールのようなものだった。わたしを不自由にすることが、むしろ絵を自由にすることがあるから。けれどそれらもほんとうはたくさんの行き先を限定するためのべつの方法だったのかもしれない。
絵画のおそろしさに向き合ってみる。一手一手の根拠がすこしずつ満ちてくるのを、待つように描く。でも、そのまぼろしのような根拠は、気がつくと手をかすめて逃げていってしまっていたりする。その繰り返しのなかに、わたしの日々はある。
油絵の具は答えを教えてくれず、たくさんの行き先だけをひらき続ける。描き終わりは困難になった。画面が満ちてもまだ、いくつもの行き先を示しているから。そのとき、知らない誰かを想像してみる。この絵画が出会うかもしれない誰かが、自分やこの絵画と違う時間に生きていることを。
さいきん、歳をとった父から短いメッセージをときどき受信する。それらは日本語の文とはちがう文字列で、普通に考えれば間違って打たれている。抽象的な絵画の単位のような記号だけでできている。
いま父は忘れてゆく病のなかに生きている。でも、きちんと送信ボタンが押されたそのメッセージは、間違いなくなにか意思のある発信だと思う。ただの間違いではないその文字列を読みたいし、読めるはずだとも思う。
父との暗号以上で共通言語未満のコミュニケーションは、いまわたしが絵画とのあいだでしたいそれに重なる。今回の「i'll painting…」シリーズは、そういうコミュニケーションのようにして描いた。たしかに、絵画はすべてを覚えてしまうし、人間からは記憶がこぼれる。でも、描くなかでわたしが知らなかったふるまいをする絵画は、父のようであり、未来のわたしや、まだ知らない誰かかもしれない。読みとりきれないメッセージをひとが打つのと同じで、描いているなかでは正しさも間違いもない。絵画は調和も不和も一手ごとに変えるし、一手ごとに知らない世界に通じ、知らない誰かと交信できるかもしれないという感覚をくれる。絵画を描くことでしかできないことがあると、あらためて思っている。
本展では、坂本が「知らない誰かとの交信」として捉える絵画のあり方が、新作群を通して提示されます。正しさや誤りを超え、未知の世界へと接続していく絵画の可能性を、ぜひご高覧ください。
オープニングレセプション
日時 2026年8月22日(土)17:00~19:00
(作家も在廊予定です)
プロフィール
坂本夏子(1983年熊本県生まれ)
2012年 愛知県立芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了
2009年 絹谷幸二奨励賞受賞
2010年 VOCA奨励賞受賞
主なグループ展に「カラーズ―色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」(ポーラ美術館、神奈川、2024年)、「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」(東京都現代美術館、2024年)、「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」(国立西洋美術館、2024年)、「魔術/美術―幻視の技術と内なる異界」(愛知県美術館、2012年)、「絵画の庭―ゼロ年代日本の地平から」(国立国際美術館、大阪、2010年)
個展「ARKO 2013 坂本夏子」(大原美術館、岡山、2013年)では滞在制作による大作を発表
作品は愛知県美術館、愛知県立芸術大学、大原美術館、国立国際美術館、第一生命保険株式会社、豊田市美術館、熊本市現代美術館、高橋龍太郎コレクション、UESHIMA COLLECTIONなどのパブリックコレクションに収蔵
(以上、小山登美夫ギャラリープレスリリースより)
W'UP★7月31日~9月12日 染谷悠子「土や星や」/9月26日(土)~11月8日(日) 日高理恵子展 小山登美夫ギャラリー京橋(中央区京橋)
W'UP ★10月18日~11月8日 加藤美佳『とらしっぽリバー』刊行記念展 小山登美夫ギャラリー 天王洲(品川区東品川)
W'UP★5月23日~6月23日 佐藤翠「Stroking the Swayー風をなでるー」小山登美夫ギャラリー前橋(群馬県前橋市)
| 住所 | 東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F |
| TEL | 03-6434-7225 |
| WEB | http://tomiokoyamagallery.com |
| 営業時間*1 | 11:00 〜19:00 |
| 休み*2 | 日、月、祝 |
| ジャンル*3 | 現代美術 |
| アクセス*4 | 東京メトロ六本木駅出口1bより徒歩2分 |
| 取扱作家 | http://tomiokoyamagallery.com/ |
| *1 展覧会・イベント最終日は早く終了する場合あり *2 このほかに年末年始・臨時休業あり *3 現代美術は、彫刻、インスタレーション、ミクストメディア作品、オブジェなども含まれます *4 表示時間はあくまでも目安です 【注】ギャラリーは入場無料ですが、イベントにより料金がかかる場合があります | |
at Tama Art University Hachioji Campus Art-Theque Gallery,
Tokyo, Japan, 2025 Photo: ©︎Risaku Suzuki / Artwork: ©︎Rieko Hidaka 撮影:鈴木理策
左: 空との距離 XVIII (ドローイング) , 2025, pencil on paper, 57.0 x 57.0 cm
右: 空との距離 XXI, 2025, pigment on paper, 200.0 x 200.0 cm
日高理恵子展
会 期 2026年9月26日(土)~11月8日(日)
会 場 小山登美夫ギャラリー六本木(東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F)
開館時間 11:00~19:00
休館日 月曜日、火曜日、祝日(ただし最終日11月8日(日)は開廊)
入館料 無料
ホームページ https://www.tomiokoyamagallery.com/
この度、小山登美夫ギャラリー六本木・京橋の2会場で、日高理恵子展を同時開催いたします。作家にとって、当ギャラリーでは8年ぶり6度目の個展となります。
日高は、40年もの間、木を、枝を、葉を見上げ、そこからさらに先に広がる空との関係を見、感じ、描き続けてきました。本展では、昨年2025年多摩美術大学アートテークギャラリーで開催した「退任展 日高理恵子 空間と、自然光と、絵と、」の出展作を2会場で展示。広いスペースに自然光のみで展示構成した退任展の作品が、今回の光や空間のボリュームが異なるギャラリーではどう見え、どう感じられるのか。日高の新たな実験であり、挑戦となります。
また朝日新聞「歌壇・俳壇」の挿画と、日本経済新聞日曜朝刊・文化面の挿画の原画ドローイングもあわせて展示いたします。
そして展覧会初日、『日高理恵子 空間と、自然光と、絵と、』(写真:鈴木理策、文:椹木野衣、デザイン:須山悠里)がtorch pressより刊行、ギャラリー店頭にて発売開始となります。



日高理恵子アーティスト情報
https://www.tomiokoyamagallery.com/artists/rieko-hidaka/
オープニングレセプション
日時 2026年9月26日(土)17:00~19:00
会場 小山登美夫ギャラリー京橋(東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 3F)
※京橋のみでの開催となります。
トークイベント I
椹木野衣(美術批評家)× 日高理恵子
日時 2026年10月10日(土)16:00~17:30
会場 小山登美夫ギャラリー京橋(東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 3F)
参加費 無料
お申し込みフォームはこちら
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdb76QQe8CqHdICihNqzF3Cr8pOvnBvYqlCL0BgZm3UGcMmMA/viewform
※人数把握のため、事前のお申し込みにご協力をお願いいたします。
※当日のご参加も歓迎いたします。
トークイベント II
鈴木理策(写真家)× 須山悠里(デザイナー)× 日高理恵子
日時 2026年10月31日(土)16:00~17:30
会場 小山登美夫ギャラリー京橋(東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 3F)
参加費 無料
お申し込みフォームはこちら
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdb76QQe8CqHdICihNqzF3Cr8pOvnBvYqlCL0BgZm3UGcMmMA/viewform
※人数把握のため、事前のお申し込みにご協力をお願いいたします。
※当日のご参加も歓迎いたします。
日高理恵子の「知覚の風景」ー「空」を描くために「木の空間」を描く
日高は大学時代、日本画学科に在籍しながらも日本画材と自分の表現とのずれを感じ、鉛筆でのドローイングや模写を通じて、「見る」「描く」行為自体が表現になりえないかと模索していました。
その後、水平の視点で木を塊として捉えてドローイングで描き、それを元に麻紙に岩絵具でスケールを大きくしたペインティングを制作する手法を始めます。こうして卒業制作で描かれた「樹」(1983)は代表作の一つとなりますが、その後徐々に、その空にあたる上部の何も描けない均一な白に「空間」や「奥行き」の予感を覚え始めたと言います。
そうした中、ふと見上げて描いた作品「葉光」(1983)。そこで気づいた、木々に包まれたような身体的感覚、視野の中での上下の位置関係からの解放、枝と葉の間の空間の存在。それが「測りしれない」距離の追求へと続き、日高独自の見上げた視点の絵画として現在まで継続されてきました。
「私は木を見上げるとき、顔と空が平行になるくらい首を曲げるんです。(中略)私にはこの首を曲げることが重要です。(中略)首を曲げることで、ある身体感覚が動き出す」*1
日高は、制作にあたり、以前は神社の山桜や辛夷など、現在は自宅の庭の木蓮や百日紅をこうして見上げます。そして視点を連続的に無数に動かし、枝やその間に広がる空を見てとらえて、下を向き紙に描く、という途方もない動きを長時間繰り返す。そのドローイングをもとに、今度は壁に立て掛けた大きな画面と正対。ペインティングへとさらに自分の感覚を展開していきます。
しかし、描いていくと日高が見て感じた感覚と、平面上に創っていく空間の、ある種の「ずれ」が生じてくる。その「ずれ」を埋めようと試行錯誤することで作家自身も予期しない不思議な絵画空間が生まれてくるのです。
また特徴的なのは、天候の移り変わり、光や時間の「ずれ」も一つの作品に包含されている点です。
「私はこの時間のこの光を描きたいということではないので、外で制作しているとき、例えば朝の時間から夕方、日が沈むまで描いていたりします。(中略)絵にはさまざまな光が残っていることになります。」*2
木に、空に、身体が包み込まれるような空間のひろがり、さまざまな光、経過していく時間の厚み、それらがもたらす多層的な視点の日高の知覚体験が一枚の絵の中に共存している。一見精緻で写実的に見えても、作家の眼を通して現実とはかなり違うものが現れている。この「ずれ」こそが日高作品の本質であり、日高の作品は単なる木の絵ではない、作家の終わりのない「知覚の風景」であると言えるでしょう。
「空にある雲の位置は、私の表現には遠すぎるのです」*3
私たちは空を見上げると、あまりに遥かすぎて、実際より近いような遠いような、距離感がわからなくなるかもしれません。そんな感覚を日高は「測りしれない距離」と呼び、そこを掴む手がかり、メルクマール(目盛)として、地上に生え育つ木を選んでいるのです。
出展作についてーかすかな光から立ち上がる、途方もない距離
2017年ヴァンジ彫刻庭園美術館の個展以降、日高が関心を寄せているのが、日が沈みかけ、光がわずかになった頃の見え方であり、「時間を限定したくはないが、この見え方を描きたくなってきた」と述べています。
この時間帯にかすかな光の下で見上げると、木の枝葉は平面的なシルエットのように見えます。しかしさらによく見ていくと、単なる光と影の対比ではない、枝と枝、葉と葉の重なり、空との関係による木の存在自体の奥行きが、ある瞬間ふと立ち上がる。日高はそこに昼間の見え方と異なる「途方もない距離」や空間の広がりを感じているのです。
画面に近づくと、一見フラットな幹や葉の中に力強い筆跡が見られます。素材の岩絵具や胡粉の粒子そのものが光を受け、独特の質感と存在感を生み、さらに鮮やかな緑の絵具を焼いて独特な黒へ変化させていることで、夕暮れの光のなかで見出した樹木の見え方とも響き合っています。
日高作品には人は登場しません。それでもどこか人の気配が感じられるようなのは、そこに幾重にも重なる作家の眼差しがあるからでしょう。日高は描く時、あくまで知覚に集中していると述べますが、作家の感情は、知覚を突き詰めた結果としてどこかに現れているようにも感じます。
私たちは実際に外で木や空を見上げることで、初めて、日高がこの景色を40年もの間追い続けてきたことを実感できるでしょう。測りしれない、わからないという豊かさ。日高は作品を通してそれを私たちに気づかせてくれます。この貴重な機会にぜひご覧ください。
*1 「ARTIST INTERVIEW 日高理恵子」『美術手帖』美術出版社、2017年7月号
*2 「日高さんからの質問回答」『家村ゼミ展2023 空間に、自然光だけで、日高理恵子の絵画を置く ドキュメント』多摩美術大学美術学部芸術学科展覧会設計ゼミ、2024年
*3 「インタビュー 日高理恵子 聞き手:フィリップ・ファン・コートレン(ゲント市立現代美術館アーティスティックディレクター)」『The Space of Trees』個展カタログ、アートカイトミュージアム、ドイツ、2003年




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