W’UP★2月18日〜3月5日 ポコラート全国公募vol.10受賞者 展 九段生涯学習館 2階 九段ギャラリー

2023年2月18日(土)〜3月5日(日)
ポコラート全国公募vol.10受賞者展
障害のある人、ない人、アーティストによる自由な表現の場を生み出すべく2010年に始まった「ポコラート全国公募」。本公募は絵画や彫刻などの〈作品部門〉、身体や音を使った表現などの〈形にならない表現部門〉の2部問があり、3年ぶりの実施となった2022年夏の募集では北海道から沖縄まで全国から602点が寄せられました。
この度開催する「ポコラート全国公募vol.10受賞者展」では、2022年12月に開催した「ポコラート全国公募展vol.10」で千代田区長、各審査員、オーディエンス(来場者による投票)によって選出された受賞者8組の作品をご紹介します。各審査員が選んだ作品たちは、制作の動機や背景だけでなく、素材、手法、主題などひとつとして同じものはありません。
作者一人ひとりが今日に至るまでの道のりで、様々な出会いと気付きを得て制作された、作者の人生そのものが凝縮された表現に魂が揺さぶられます。また本展では受賞作品のほか、作家の創作の源に迫る関連作品も展示いたします。
ポコラート全国公募vol.10受賞者展
会 期 2023年2月18日(土)〜3月5日(日)
休廊日 2023年2月20日(月)
時 間 11:00〜18:30
料 金 入場無料
会 場 九段生涯学習館2階九段ギャラリー(東京都千代田区九段南1-5-10)
主 催 千代田区、アーツ千代田3331
特別協賛 中外製薬株式会社
協 賛 三菱地所株式会社
URL https://pocorart.3331.jp/
ポコラート全国公募vol.10受賞作品審査員コメント&受賞者プロフィール
作品部門
千代田区長賞 桧山昌子 MASAKOHIYAMA「卓上の賑わい」
審査員コメント
様々な凹凸や綺麗な包装紙などを切り絵のように貼り、水彩絵の具等を用いたコラージュ作品として、調和のとれた1つの世界を表現しているところに魅了されました。伺ったところ、入賞者の中で最高齢とのこと。ポコラート全国公募は、障がいの有無、年齢や経験を問わず自由な表現の場を生み出すべく始まり、今年で10回目を迎えた中で、まさに、多様な皆さんによる限りのない表現に今後も期待したい。-樋口高顕(千代田区長)
作家プロフィール
1937年東京生まれ。桜蔭中・高等学校、青山学院大学英米文学科卒。現在朝日カルチャーセンター新宿の講座「鉛筆と水彩絵の具で描く」-国画会永年会員徳弘亜男講師―に所属。高校大学時代は美術部員。結婚後は育児をしながら英語塾を開き、40代で英米の会社の専属会議通訳者となる。50代後半徳弘先生主宰「アートセンター」に入門し水彩画の手ほどきを仰ぎ25、6年に及ぶ。お茶美アートジムの理論と実技の講座に刺激を受け、家で一人絵と向き合う時間に繋がり、独自の発想で新たな作品つくりに挑戦する。
OJUN賞 荒木愛美 MANAMIARAKI「たんぽぽ」
審査員コメント
たんぽぽの花が二列に並んでいる。下の列は長い茎、上の列は少し短い。花の大きさはどちらも同じくらい。たんぽぽの輪郭の黒。花の黄色。葉と茎の黄緑。あとは紙の白。たったこれだけの色と形がいつまでも目に残る。いまも不意に現れて目の前を一瞬明るくする。小さく、清しく、心楽しい絵。わたしの言葉もこれでおわり。一つのイメージが胸に宿るのはこんな絵を見た時だ。ーOJUN(画家)
作家プロフィール
1982年神奈川県生まれ。所属:あーる工房通所施設のベーカリーカフェにてパン作りに従事。以前からアニメ等のキャラクターやドラマの場面を描いたり、絵本を創作するなど、人物の表情や動きをとらえた絵をよく描いている。2020年より施設の絵画活動に参加。アニメキャラクターも描くかたわら、花や鳥などのモチーフにも挑戦し始める。じっくりとモチーフを選び、決まると集中して一気に描き上げている。今回の作品も優しい色彩とリズミカルに並んだモチーフが春風に揺れる花の動きを感じることができる。
日比野克彦賞 河村嘉英 YOSHIHIDEKAWAMURA「ドローイング」
審査員コメント
身体的に紙に描くという行為と向かい合うと、既製品の紙のサイズや既製品の描画道具に身体を合わせてしまいがちなのに、この作品は、自身の身体に紙を描画道具を合わせている。そこが好きです。-日比野克彦(アーティスト、東京藝術大学学長)
作家プロフィール
6年前に細かくちぎった和紙を分類することに夢中だった河村さんに、用紙とペンの束を手渡すと、素早く点を打ち始める。トントントン、ツー。点は徐々に短い線に変わり、最後は長い線になりまた点に戻る。この繰り返しの中で、河村さんの意識が徐々に高まっていくのがはっきりと感じとれた。以降河村さんは画面を埋め尽くす勢いで線を引き続けた。数年後のある日、永遠に終わりが見えないロール紙への作画の途中、ペンのインクが切れたのを境に作画にあまり意識が向かなくなっていった。
保坂健二朗賞 佐下橋伸一 SHINICHISAGEHASHI「謙虚に幸せ」
審査員コメント
「謙虚に幸せ」の全文を引用しよう。「仕事はテキトーに、その工場長は言った。/機械がきしむ/機械がきしむ/オイルをさす/皆で昼ご飯を食べた/帰りに寄るパチンコ屋を思った」(/は改行+行開けを示す)。片仮名を巧みに選び、リフレインを使い、脚韻を忍び込ませる。そして最後の一文で、これが詩であるとともに超短編でもあることを示す。「骨休め」なる短編には推敲の痕跡も残されていて、冒頭の一文の主語が「彼」から「ぼく」に変更されている。しかし続く文では「私」や「彼」が使われているという主体の揺れ動きが、たまらない。ー保坂健二朗(滋賀県立美術館ディレクター(館長))
作家プロフィール
群馬県桐生市出身。早稲田大学第一文学部考古学専修卒業。高校生の時から体調が優れず、大学に入学したものの一度自主退学し再度復学する。実家に帰り、30歳の頃、働くことは困難、だったら高校生の頃忙しくてできなかった油絵を描いてみたいと思い、描き始める。小説を書いたのは、彼女に書いてみたらといわれたことがきっかけ。小説を書くときは、セロニアス・モンクの音楽をかけ、集中して脳の次元を音楽の次元に合わせて書いている。
中村政人賞 岩崎治平 JIHEIIWASAKI「無題」
審査員コメント
絵画の形象は、その立ち現れ方、つまり作者の思考や筆触などその足跡をなぞるように生まれてくる。岩崎さんの絵画における形象性は、独特な描画行為から心のひだが生まれるようにマチエールが派生している点が魅力的である。同じような行為が何度も何度も繰り返されて少しずつ進化するように蜜蝋クレヨンが付着している。結果、根源的な生命力が形象化され純粋な情動性を抱く切実で逸脱した表現となっている。ー中村政人(アーティスト、東京藝術大学教授、アーツ千代田3331統括ディレクター)
作家プロフィール
1974年大阪生まれ、社会福祉法人ノーマライゼーション協会西淡路希望の家所属。月2~3回日中1時間ほどの創作の時間を楽しみにしている。普段は軽作業の手伝いなど、ゆっくりと過ごす班に所属しており、仲間と楽しく生活している。描きながら指を舐める癖があり、こどもが使用する外国製の蜜蠟クレヨンに替え、今の制作スタイルになる。じっくりと色を選び、画面にクレヨンを走らせ、その上を指で何度もなでるように擦り、またクレヨンを使い、その繰り返しによって体温で温められたクレヨンが溶け、またそこにクレヨンを塗り込んで積層になっていく。
オーディエンス賞 佐久間智之 TOMOYUKISAKUMA「25台の車シリーズ(赤・青・黄・緑)」
ポコラート全国公募事務局コメント
カラフルな色面が連なり、同じ方向をむいて描かれている自動車達。両親から渡されたアンディー・ウォーホルの画集に描かれた車をモチーフに、色彩豊かに反復する姿が描かれている。同系色の中でも微妙に色が描き分けられ、一つ一つの車の個性も描き込まれた繊細さを合わせ持つ。画集から影響を受け、憧れる世界観に近づこうとしている作者の懸命さが伝わってくる。絵と向き合う時間を大切に過ごしていることが、絵の中の一塗り一塗りの積み重ねから伝わってくる。
作家プロフィール
1996年北海道生まれ。2014年特別支援学校高等部卒業。幼い頃から車に強いこだわりがあり、趣味はトミカ収集。絵を描くことが好きで、カラーペン等で様々なモチーフを描いていた。鉛筆画が多かったが高等部の美術の時間にアクリル画を制作。2013年国立大学附属学校PTA連合会絵画コンクールで日比野克彦賞を受賞。2015年から現在までユニクロで障がい者スタッフとして勤務し、休日に自宅や公共施設で制作を行っている。画材はアクリル、色鉛筆が多く、アクリル画は描き上げるのに1年以上かかることがある。
形にならない表現部門
大月ヒロ子賞 伊藤啓吾 KEIGOITO「ほつきの達人」
審査員コメント
伊藤さんの関心は紐やTシャツやズボンの編み目をほどくこと。編まれたものを解いていく行為は、止め時が分からなくなるような魔力に満ちている。純粋な関心とこだわりの結果に生まれてきた、様々な形状・質感・色の糸の塊は、まさに形にならない表現そのものである。伊藤さんは織りも行っているようで、紐状に切られた布やそれを織り込んだモノも並べられている。無意の行為から地続きの表現を行きつ戻りつする伊藤さんの豊かな時間の痕跡を目の当たりにした時、日々の暮らしの中で手を動かすことや、モノと戯れる時間を失いつつある私たちは、ハッとするのだ。ー大月ヒロ子(IDEA,INC.代表取締役)
作家プロフィール
1967年愛知県生まれ。社会福祉法人さふらん会さふらん生活園所属。幼少期から手先が器用で細かいことが得意。入所してからは、手織りのマットを作成しているが、作成途中にマット紐の端の糸のほつれが気になり、その糸を1本ずつ器用にほどくようになる。糸ほどきを始めてから職員に何度も注意されるが、その表現活動を続け、30年以上糸ほどきをしている。普段は雑誌や新聞を読み楽しんでいる。また、電気のスイッチをオン・オフにして遊ぶ姿や、気になる芸能人の名前を繰り返し言うことも特性である。
西原珉賞 池田朱里 AKARIIKEDA「表現を探す」
審査員コメント
両部門の作品を拝見して、各々作品に現れている表現者の衝動、感情、欲求、願望等の力と、表現者を応援し、支えている方たちの支援力とでもいうような力、その双方が関わり合っている現在進行系のエネルギーのぶつかり合いを見る思いがし、感銘を受けました。「形にならない表現部門」では全員に賞を差し上げたいところですが、そんな訳で、「表現すること」に率直な光を当てて下さった、池田朱里さんと、朱里さんに寄り添って表現を探してくれた施設の方たち、そして朱里さんの周りにおられる方々に賞賛を贈ります。ー西原珉(秋田公立美術大学教授、キュレーター、臨床心理士)
作家プロフィール
1986年生まれ、みぬま福祉会はれオハナ班所属。仕事としてウエスや表現活動等を行ってきたが彼女にあった仕事がなかなか見つからなかったため、現在は仕事を探すことを仕事にして、様々なことに挑戦している。他の仲間が制作している姿を眺めることが好きで、よく真剣な眼差しで見つめているが、真剣すぎる故に接近しすぎて嫌がられることもある。窓から外を眺めるのも好きで、歩き回ってはお気に入りの窓をみている。最近では他の仲間をまきこみ、みんなで窓の外を眺める姿がある。
作品に込められた思い、知られざるエピソードをぜひ会場で!
『受賞者によるアーティストトーク』

関連イベント情報
ポコラート全国公募vol.10の受賞者たちやその家族・支援者など関係者が受賞作品をはじめとする展示作品についてのエピソードを紹介し、スタッフのコメントを交えながら会場内をまわります。
日 時 2023年2月19日(日)14:00〜16:00会場:展示会場内
参加費 無料
定 員 なし
※詳細は、SNSで随時お知らせします。
「ポコラート(POCORART)」とは
Placeof“Core+RelationART”、「障がいの有無に関わらず人々が出会い、相互に影響し合う場」であり、その「場」を作っていく行為を示す名称で、アーツ千代田3331の立ち上げと同時に始まりました。アート作品やワークショップ企画の公募、福祉と美術を考えるトークイベントなどを全国に向けて発信し、作者や作者を支える多くの方々のメッセージを受け取り、表現・発表・評価環境の改善に取り組んでいます。「ポコラート全国公募」は、ポコラートの中心的な活動の1つで、当初は障がいのある人のみを対象として始まりましたが、2回目より障がいのある人もない人も、ともに成長できるオープンな「出会いの場」を作ることを目指し、障がいの有無・年齢・経験などを問わず幅広く応募を呼びかけています。
「純粋なる芸術」を〈アール・ブリュット〉や〈アウトサイダー・アート〉という枠からより広い世界へと導くために、“人と人”“人と作品”が出会う「核心」の場を創出すること、未だ私たちが知らない多くの可能性に満ちた表現と作品の存在価値を社会的に問い直すこと、ポコラートはその契機となることを願っています。
コメント