W'UP! ★ 11月2日〜12月8日 オノデラユキ個展『Parcours - 空気郵便と伝書鳩の間』 WAITINGROOM(文京区水道)
オノデラユキ個展『Parcours - 空気郵便と伝書鳩の間』
会 場 WAITINGROOM(東京都文京区水道2-14-2長島ビル1F)
開催日 2024年11月2日(土)〜12月8日(日)
開廊時間 12:00~19:00
休廊日 月、火、祝日
入場料 無料
ホームページ https://waitingroom.jp/
お問合せ 03-6304-1877
WAITINGROOM(東京)では、2024年11月2日(土)から12月8日(日)まで、パリを拠点に活動するオノデラユキをゲストアーティストに迎え、当ギャラリーでは初めての個展『Parcours – 空気郵便と伝書鳩の間』を開催いたします。
この展覧会は、「アートウィーク東京2024」参加展示です。 ギャラリーが郵便局跡地であることに着想を得て制作がはじまった今回の新作群は、「通信」「情報伝達」をテーマに、オノデラの居住地であるパリと東京のギャラリーを繋ぎ、別の空間や過去と現在という別の時間軸が、通信システムを起点に重なり合うような手法で制作されました。2mを超える縦長の大型プリントから、切手が貼られ消印も刻印されたハガキサイズの小さなプリントまで、多岐にわたる郵便をテーマにした作品が約40点、ギャラリー手前から奥のさらに奥のスペースまで、1本の赤い線で繋がれて展開されます。この機会にぜひご高覧ください。
作家・ オノデラユキについて
東京都生まれ。1993年よりパリにアトリエを構えて世界各地で活動を続けています。 オノデラユキは、写真を中心的な手段としながらも、カメラの中にビー玉を入れて撮影するなどタブーとされるようなことも自由に乗り越えて制作する、極めてコンセプチュアルなアーティストです。また、事件や伝説から構築された世界観は物語的で、型にはまらないユニークな発想で独創的なシリーズを数多く発表しています。2Mを超える銀塩写真を自ら焼き付けたり、モノクロ写真に油絵の具で着彩を施すなど、機械的と思われる写真の概念を覆すほどその作品群には手の痕跡が刻まれており、あらゆる手段で「写真とは何か」を問う実験的な作品を制作しています。 作品はポンピドゥ・センターを始め、サンフランシスコ近代美術館、ポール・ゲッティ美術館、上海美術館、東京国立近代美術館、東京都写真美術館など世界各地の美術館にコレクションされています。主な個展は、国立国際美術館(2005)、国立上海美術館(2006)、東京都写真美術館(2010)、ソウル写真美術館(2010)、フランス国立ニエプス美術館(2011)など。
アーティスト・ステートメント
ギャラリーWAITINGROOMはそもそも郵便局(旧文京水道郵便局)であった、というところからこの新作が動きだした。入り口上にPOST OFFICEと書いてある。膨大な数の郵便物がここに集まりそして各地へと運ばれて行く、そんな過去をもった会場は空想の入り口だった。私はこの事実をきっかけにポンと飛び、私の住む街パリで「郵便」をキーワードに時間と空間をトリップするという写真作品を考えてみた。
空気郵便(La post pneumatique)というサービスをご存知だろうか? パリでは1868年から1984年まで営業されていた。電信が飽和状態となって、それを解消するために考案された当時のハイテク通信システム、パリの地下を縦横に走り巡る物理的郵便物ネットワークである。紙に書いた手紙を郵便局に持っていき郵便局員に手渡す。局員はそれを筒状カプセルに仕込み、脇で口を開けているチューブの中に放り込むのだ。カプセルは地下に落ちると圧力と真空の力で1分1キロの猛スピードで目的地に向かって走り出す。自分の足元、その下にはこの鉄チューブのネットワークが張り巡らされていたのだ。つまり私たちの地面の下を常に手書きのメッセージが物理的に飛び交っていたのである。機械のような街。
思い至ってみればDNAを待つまでもなく情報伝達、通信こそ生命活動の目的ではないか。太古からの人の営みも。
制作はまず地図作りから始まった。
私はかつての空気郵便各局のネットワーク図を入手し、現在のパリの地図上に照らし合わせてみた。それぞれの基地局を繋ぐような線をたどたどしく書き写していくと、このキメラのような形の閉じたラインの地図が出来上がった。このラインが今回の制作の元になる、全長37キロのパルクール『Parcours』のコースである。しかし空想は地下の空気郵便に終わらない。通信である。地下から視線を空にずらして出現したのは伝書鳩だ。私の問いは「伝書鳩は原寸大の地図を見て飛ぶのか?」。
今回の制作は自身で作ったパルクールのコースを移動して写真を撮ること。コースから外れたパリの観光写真は撮らない。しかしこの行為をリアルなドキュメンタリーにもしたくない。「~通り」の写真を撮るのではなく、コース上に立って見えてくる光景を踏み台とする。時には小説のように主体の視点が突然、鳥の視線になったり、地下に張り巡らされている、複雑に絡みあったチューブの中に入ってしまうような、そんな超越が欲しい。
そのようなわけでどれもストレート写真にはならなかった。
例えば暗室で、自身で焼いた銀塩プリントにバッサリと鋏を入れる。複数の写真をモンタージュし、キャンバスにコラージュする。暗室ではさらにフォトグラムの手法で風景のプリントに別次元のイメージを焼き付けてみた。バライタ・プリントにパピエ・コレを試みる。1936年と1938年に売られていたフランスの科学雑誌「La Nature」、2年分を手に入れた。段ボール一箱分もあるその雑誌には当時のハイテクがびっしりと紹介されている。研究論文、記事、広告、これはと思うページを切り抜きコラージュしてみた。現在から88年遡るハイテク・トリップだ。記事の存在を確かめるように絵肌を加えていく。写真の上にレリーフ状のテクスチャが現れた。記憶の可塑化と言われた「古着」そのものを銀塩プリントの上に糊で貼ってしまった。
展覧会場で最初に見えるのは赤いラインでペイントされたパルクールのコースと「鳩カメラ」のような鳥瞰写真のコラージュ。そして次の作品では通行止めの写真が、しかしその通行禁止は空に向かっている。もちろん空は鳥のためにあるのであり、ドローンの為にあるのではない。上と下を意識して撮影した天地に長い(250cm)縦長の作品が2点。撮影場所は<Rue des Panoramas>と<Rue Lhomond>。パノラマという名前はパノラマ画家であった、あのダゲールを思い出すだろう。アジェも1907年と1913年にこの地点で全く同じ写真を撮っている。今回のプリントでは地面の部分に地下ネットワークを想起させるフォトグラムを施し、空には鳩の飛行の形跡をコラージュで示してみた。
パリでは地下鉄が地下から飛び出し中空(高架線)を走る場所が2ヶ所あるのだが、その1900年に作られた北の箇所(Boulevard de la Chapelle)を撮影してみた。複数の写真をモンタージュしていくことで視点がズレてしまい、安定したパースペクティブが崩れイメージの隙が現れた。地下でも空でもない存在感も強固な地上の鉄のネットワークが揺らぎはじめる。
さらに会場には小ぶりのサイズの銀塩プリントが30点ほど展示される。これらの写真はプリントした後に一度郵便物として自身の手から離れ、その後また自分のところに戻ってきた写真。切手が貼られ消印も刻印されている。
会場の壁には奥のスペースに誘うよう赤いラインが引かれている。例のコースのラインのつもり。ラインを辿ると最後の壁には鳩の飛翔。1994年制作の”Birds”シリーズから未発表のイメージが展示される。パリの過去の地下郵便ネットワークから発したパルクール『Parcours』のコースをこの旧文京水道郵便局のスペースに少しだけでも移植できただろうか。パリの小さな時空間へショート・トリップできればうれしい。
2024/09/12 オノデラユキ
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