【Physical Expression Criticism】京都、奈良に舞踏を見る~3
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【Physical Expression Criticism】京都、奈良に舞踏を見る~3

大倉摩矢子『Here』photo:仲田真紀子
田中誠司スタジオの扉

・奈良の舞踏状況
 7月15日から17日、京都で舞踏フェス「Dancing Blade #2」に参加し、翌18日、筆者らは奈良に向かった。奈良で活動する大野一雄の弟子、田中誠司のスタジオで、東京の天狼星堂出身の舞踏家、大倉摩矢子の舞台を見るためだ。

 田中誠司は、大野一雄の最後の時期に、大野一雄舞踏研究所で学んでいた。大野はすでに車いす状態だった。当時、ピナ・バウシュが来日して、公演に大野が訪れた際、ピナが車いすの大野にキスをする場面の写真が有名だが、それを撮影したのが、田中誠司だった。

 田中は、東京での公演活動の後、2011年、故郷、奈良に戻って田中誠司舞踏スタジオを開いた。以降、ドイツ・デュッセルドルフ舞踏フェスティバルを皮切りに、国内や欧州で積極的に活動し、札幌舞踏フェスティバルにも出演している。

・田中誠司
 田中誠司舞踏スタジオは、近鉄奈良駅から、近鉄京都線の急行で12分、高の原駅から徒歩8分ほどのところにある。高の原駅までは、京都からも1時間程度だ。その場所は元々、うどん店で、一階を田中の整体院とし、広間だった二階を舞踏スタジオとした。また、田中の妻、阪東佳代は、白日会に所属する画家で、一階奥をアトリエとしている。阪東も優れた美術家として活動している。

田中誠司『灰の消息』photo:春日 玄

 田中のスタジオでは定期的にワークショップを行い、時折、公演活動をしている。そこに、東京から大倉摩矢子が呼ばれたのだ。同じ大森政秀の天狼星堂門下で、ワタルが京都、大倉が奈良に同時期に呼ばれて踊るという、偶然のタイミングだった。

・大倉摩矢子という舞踏家
 大倉摩矢子は、学生時代に、大野一雄の映像を見て、舞踏に関心を抱いた。そして、大森政秀に師事し、彼の主宰する天狼星堂で舞台を踏んだ。

 大森政秀は、笠井叡の天使館で学んだが、土方巽とも交流がある舞踏家で、東京・中野の劇場テルプシコールを本拠地にして、活動している。大森の門下からは松下正巳、大倉、横滑ナナ、前述のワタルなど、優れた舞踏家が育っている。大森は、2011年には師・笠井叡の『血は特別なジュースだ。』の京都芸術劇場「春秋座」公演に出演している。

 筆者が知ったころ、大倉摩矢子は、天狼星堂公演に出演していた。そして、最初に注目したのは、2003年の麻布die-pratzeで上演された『泥鰌のヒゲを見ていた…。』だった。それは、前で踊る舞踏家たちの背後を、ゆっくり静かに、上手から下手に歩くだけの場面。だが、そのわずかに揺らめき歩む身体が実に魅力的で、その輝きに魅せられた者は多かったようだ。

 大倉の舞踏は、コンテンポラリーダンスからも注目され、ラボ20#13(横浜STスポット)などの企画やイベントにも出演した。だが、あくまで舞踏に基盤を置きつつ、さまざまな試みを繰り返してきた。また、2004年、田中泯が主催していたダンス白州の野外で踊った姿も強く印象に残っている。2004年には、ソロ作品で第35回舞踊批評家協会賞新人賞を受賞した。

 大倉は、2012年まで天狼星堂公演に出演し、2013年まではソロやコラボ作品も多く踊り、2014年まで大森政秀に師事していた。近年は、笠井叡門下でオイリュトミーを学んだ鯨井謙太郒(※)の公演に出演し、鯨井とともにワークショップを行うなどで、しばらく自らの公演がなかった。また、2012年からヨガを学び、以降、ヨガのインストラクターとして活躍している。そして、数年ぶりに見たのが、この奈良でのソロだった。(※)鯨井謙太郒の「郒」は、端末によっては表示できない場合がございます。良+邑となります。

大倉摩矢子『Here』photo:仲田真紀子

・天空に向かう舞踏
 畳敷き20畳ほどのスペースの三分の一が観客席と音響・照明席で、客の収容人数は15人ほど。大倉は、Tシャツにズボンというシンプルな姿で登場し、空間を探るようにゆっくりと動き出す。そして、スイッチが入ったように、身体が緊張する。その緊張を維持したまま、下手の奥から手前まで畳一畳ほどの空間を、本当にゆっくりと動く。その適度な緊張が身体を開き、その感触が伝わってくる。細身の身体、小さい顔、短めの髪。ルーカス・クラナハの絵画にも似た顔は、自分の中を見つめながらも、閉じていない。少し半眼になるが、身体はその場を踏みしめている。当初、軽やかに見える体が、次第に存在感を持って迫ってくる。

 前半の縦のゆっくりとした畳一畳の動きで、見る側は視線をはずせなくなる。動き自体が魅力的なのだ。それは時には、アンジェリック(天使的)に見えることもある。やがて、センターに動き、強い動きも交えながら、踊り続けるが、緊張感を絶やさない。それが、上手奥から下手手前の観客席側の光に向かうときには、天空もしくは光そのものに向かっていくという印象を与え、一種、宗教的な気配さえ感じさせる。そう思わせる力が大倉の踊りにはあるように思えるのだ。

 九月に、大倉は東京で久しぶりのソロを踊る。楽しみだ。

 これまで述べてきたように、西では、京都、大阪、奈良など関西、さらに九州、中国、四国など各地で舞踏家たちが活動している。筆者もこれまで、北海道と九州・福岡、京都で話す機会をいただいた。東京では、彼らの活動に触れる機会が少ないが、北海道や東北などの舞踏家の活動を含めて、各地の舞踏家とネットワークをつくって、互いに公演やワークショップ、情報交換を行う機会をつくれればと思っている。

 なお、筆者はFacebookで、Japan Butoh Network(JBN)というグループページをつくって、国内外の舞踏情報を掲載している。海外からも常に注目されている舞踏の日本各地での活動を、今後も広く紹介していきたい。
https://www.facebook.com/groups/1561435297491555

田中誠司ホームページ
http://web1.kcn.jp/seijitanaka/information.html
大倉摩矢子ホームページ
http://mayakoookura.com/

「京都、奈良に舞踏を見る~1」を読む
「京都、奈良に舞踏を見る~2」を読む

■志賀信夫他のブログ https://tokyo-live-exhibits.com/tag/%e5%bf%97%e8%b3%80%e4%bf%a1%e5%a4%ab/

Nobuo Shiga
批評家・ライター
編集者、関東学院大学非常勤講師も務める。舞踊批評家協会、舞踊学会会員。舞踊の講評・審査、舞踊やアートのトーク、公演企画など多数。著書『舞踏家は語る』(青弓社)共著『美学校1969~2019 』『吉本隆明論集』、『図書新聞』『週刊読書人』『ダンスワーク』『ExtrART』などを執筆多数。『コルプス』主宰。https://butohart.jimdofree.com/

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