【Physical Expression Criticism】京都、奈良に舞踏を見る~2

【Physical Expression Criticism】京都、奈良に舞踏を見る~2

『発熱』桂勘。photo:海野隆

京都舞踏フェスティバル

 7月に立ち会った、京都の小規模な舞踏フェスティバル「Dancing Blade #2」の公演について記している。前回は京都・関西の舞踏、コンテンポラリーダンスシーンについてと、初日15日の公演について書いた。今回は、16日、17日の公演について記す。

『裂傷』シンキミコ(舞踏青龍會)photo:海野隆

7月16日:裂傷から発熱へ

 『裂傷』シンキミコ(舞踏青龍會)
 シンキミコは、福岡の河合塾に勤務していて、講師だった原田伸雄と出会って、舞踏を始めた。7月16日の舞台は、白いドレス、レースの長白手袋の盛装で、右手を斜めに上げて左膝を前に出し、体を傾げた一つのポーズを徹底的に維持する。その緊張感から、その手で顔を探っていたかと思うと、やがて万国旗を口から出してくる。その意外性、インパクトと一種のコミカルな行為。さらに、その旗を顔に貼りつけていく執拗さ。それは、静かに流れる『ファイト』の楽曲とともに、強く心に残る、いい舞台だった。

『山姥』杜昱枋(Dudu、舞踏白狐系)photo:海野隆

『山姥』杜昱枋(Dudu、舞踏白狐系)
 杜昱枋は、北京ダンスアカデミー出身で、2010年から桂勘に師事。中国、欧米などでも国際的に活動している。彼女は、黒いノースリーブのワンピースに、長い黒髪で顔を覆ったまま踊り続ける。その徹底によって、内的世界をイマジネイティヴに広げる。やがて、逆巻くように髪を上げたときの狂気は比類ないものだ。そして、さらなる乱舞と、それとともに立ちのぼるエロスの発露とともに、舞踏の強いエネルギーを吐き出した。

『発熱』桂勘。photo:海野隆

『発熱』桂勘
 白虎社に旗揚げから参加した桂勘は、1986年には自らのカンパニー「桂勘&サルタンバンク」を結成。国際的に活動し、2018年から京都国際舞踏祭を開催している。2020年には京都市芸術振興賞を受賞。今回、門下からは5人が出演している。桂は、白いスーツに白塗りの端正な姿で登場した。そして、さまざまにコラージュされた『戦場のメリークリスマス』の音とともに、踊りのボキャブラリーの多様さを示した。そのなかで、カオスと聖なるものとの往還を、見事に見せた。

『無題』金亀伊織(The Physical Poets)photo:海野隆

7月17日「日大節」の謎

『無題』金亀伊織(The Physical Poets)
 金亀伊織は、2002年に藤條虫丸の「The Physical Poets」に参加。2018年の左足骨折を経て、2020年には、15日出演の岐阜のタイニーと「kumorizora」を結成して活動している。17日の金亀は、無音にツン一枚の裸身の存在が示す身体の力を追求する。そして身体を通じて、自分の内面を執拗に探りつづける姿勢が、踊りに強い生命観を与えていた。

『日大節』ワタル。photo:海野隆

『日大節』ワタル
 そして、東京から、大森政秀が主宰する天狼星堂のワタルが出演した。ワタルの母も舞踊家だったが、ワタルは1995年からパフォーマンスを始め、2002年に大森政秀に師事している。ワタルは、大学の寮歌「日大節」のようなものを歌いながら、客席から白シャツに黒ズボンで登場し、静かに世界を探る。そこから、日常の姿で苦闘する狂気を体感させていく。そして、関東から唯一参加の気合いとともに、観客を巻き込み、見事だった。

 なお、「日大節」は「近大節」との類似から、近年歌われなくなっているらしい。近大側がオリジナルと主張しているが、近大は日大大阪校が前身とのこと。また、「報国節」が発祥という話もある。

『曙光』原田伸雄。photo:海野隆

『曙光』原田伸雄
 原田伸雄は、笠井叡に師事し、大野一雄に学んだ。1980年に舞踏青龍会を結成して、現在、福岡で約15人の門下生とともに活動し、今回の企画にも5人が出演している。
原田は、白塗り白シャツ、サスペンダーの白ズボンに、オレンジの花一輪のコントラストを魅せる。そして、無音の中に拡張していく意識と、狂気から聖性を獲得する世界を巧みに表現し、最後に、その残像が焼きついた。

 以上のような公演後、毎日、筆者と桂勘、藤條虫丸、原田伸雄、清子らから3名によるトークが行われた。また、そのなかで、筆者と同道した84歳の舞踏家、三浦一壮が数分間、踊った。トークの映像はいずれ編集・配信されて、見ることができるはずだ。

「京都、奈良に舞踏を見る~3」に続く
「京都、奈良に舞踏を見る~1」を読む

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Nobuo Shiga
批評家・ライター
編集者、関東学院大学非常勤講師も務める。舞踊批評家協会、舞踊学会会員。舞踊の講評・審査、舞踊やアートのトーク、公演企画など多数。著書『舞踏家は語る』(青弓社)共著『美学校1969~2019 』『吉本隆明論集』、『図書新聞』『週刊読書人』『ダンスワーク』『ExtrART』などを執筆多数。『コルプス』主宰。https://butohart.jimdofree.com/

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