【Art News Liminality】まちとアートの浸透圧―「すみだ向島 EXPO 2020」を歩く その1/6

【Art News Liminality】まちとアートの浸透圧―「すみだ向島 EXPO 2020」を歩く その1/6

 2020年の秋、すみだ向島に現われたアート/まちづくりのニューノーマルとは? 全6回にわたる批評ドキュメント。その1

 まちはアートによってどのように姿を変えるのだろうか? 人がアートともにまちに住まうとしたら、どのように?「すみだ向島EXPO 2020」(*1)が、20209121011(日)にかけて東京都墨田区の街中で開催された。やわらかな青空と陽光に包まれた9月の土曜日に訪れた。

 曳舟エリアにある約40箇所を会場として、建築プロジェクト、隣人プロジェクト、アーティストプロジェクト、軒下プロジェクト、そしてKAB Art Book Camp展からなる体験型芸術祭だ。すみだ向島EXPO実行委員会代表の後藤大輝の「宣言文」によれば、人と人、人と共同体(コミュニティ)の関係性に着目し、コロナ禍にあって顕在した「関係する」というテーマに取り組んだものだという。

 「隣人と幸せな日」というスローガン(*2)のもと、芸術監督の美術作家・北川貴好は内閣府の「ムーンショット型研究開発制度」で提唱されている「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する」というビジョンに触れながら、人間が制約から解放されるきっかけをアートプロジェクトに見出し、観客を「隣人」に見立てて会場となるエリアへの創造的なかかわりを構築しようとする。

 アーティスト/クリエーターとともに「新しい生活様式」や地域とのかかわりを見直すプロジェクトは、すみだ向島EXPO実行委員会アドバイザーの建築家・長谷川逸子によるワークショップの参加への呼びかけを介して、「隣人」としてまちに訪れた他者とともに、まちのあり方を見直すというコミュニケーション・デザインへと開かれていった。

《京島長屋再生まちづくり展》(明治大学山本俊哉研究室)

 建築プロジェクトは、住民と「隣人」の邂逅と混交が都市開発やまちづくりにおける危機感と解放感を感じさせるものだった。京島エリアのまちづくりの歴史を振り返り長屋を解体せずに住み続けるモデルを提案する《京島長屋再生まちづくり展》(明治大学山本俊哉研究室)(*3)は、スクラップ・アンド・ビルドによる暴力的な都市開発への対抗として、「特別譲渡特約付き定期借地権」を利用した長屋と景観の持続可能な継承の可能性を示していた。

 物件の大家である住民と「隣人」として訪れたアーティスト/クリエーターとの共存共栄を素描する風景には、功利的な経済原理への決別と創造的な経済規範への希望を経て相互に信頼関係が芽生えつつあることが感じられた。

《京島屋梅里会員制浴場》(後藤大輝)

 個別浴槽で3人ほどの混浴ができるという私設銭湯体験《京島屋梅里会員制浴場》(後藤大輝)(*4)は、混浴が実現するシチュエーションに不穏さを潜ませながらも、裸形の出会いとコミュニケーションの発生を投げかけるラディカルな試みだ。隣人プロジェクトでは、同スペース前に設置された《北條式足踏みアルコール噴霧器》(北條工務店)(*5の感染症対策との組み合わせは、コロナ禍における出会いへのセンサーシップの介入を風刺し、ソーシャルディスタンスに対するディスタンスを推し量ろうとするメタレベルの批判精神を見出すこともできた。

 会場内のカフェや商店街を案内する《隣人コンシェルジュ》(三田大介)(*6)が手渡す「飲食体験引き換えチケット」は、訪問先の店舗が自分だけのおもてなしのスペースになるという温もりを感じさせるものだった。アーティストプロジェクトとして展開されていた、《丁寧な間合い―死と食と刀―体験イベント編》(EAT&ART TARO)(*7)には、観光目的でエリアを訪れる訪日外国人への緊張感あるおもてなしといったユーモアをみることもできた。

(*1)すみだ向島EXPOhttps://sumidaexpo.com/
(*2)すみだ向島EXPOABOUT2020https://sumidaexpo.com/about/
(*3)明治大学山本俊哉研究室.京島長屋再生まちづくり展.https://sumidaexpo.com/artist/meiji-uni-yamamoto-lab/
(*4)後藤大輝.京島屋梅里会員制浴場.https://sumidaexpo.com/artist/umesato-bath-goto/
(*5北條工務店.北條式足踏みアルコール噴霧器.https://sumidaexpo.com/artist/houjou-koumuten/
(*6)三田大介.隣人コンシェルジュ.https://sumidaexpo.com/artist/daisukemita/
(*7EAT&ART TARO.丁寧な間合いー死と食と刀ー体験イベント編.https://sumidaexpo.com/artist/eatandarttaro/

 以上 文・撮影:F.アツミ(Art-Phil

F. Atsumi
編集・批評
アート発のカルチャー誌『Repli(ルプリ)』を中心に活動。これまでに、『デリケート・モンスター』(Repli Vol.01)、『colors 桜色/緑光浴』(Repli Vol.02)などを出版。また、展示やイベントなどのキュレーションで、『春の色』(2013年)、『十字縛り キャッチ・アンド・リリース』(2013年)、『テロ現場を歩く』(2014年)などに携わる。アート、哲学、社会の視点から、多様なコミュニケーション一般のあり方を探求している。https://www.art-phil.com/

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