【The Evangelist of Contemporary Art】グローバル・アート・リサーチ — コロナ禍後を見通すためにアートマーケットの直近の歴史(2007年~2017年)を押さえておこう(前編)
本テクストは、2017年に行われた私のレクチャーを元にしています。なぜ2020年の現在、このテーマを再考したかというと、当時見えなかった幾つかの重要な変化が明確になってきたからです。これは、端的に今後のアートマーケットの動向を占う縁(よすが)になるでしょう。マーケットなので、あくまでコマーシャリズム(利益中心主義)ですが、21世紀の現代アートにおけるマーケット優位の状況を鑑みて、その動向を吟味しておくことは必要であると考え、なるべく多くのエヴィデンス(視覚的資料)に簡潔なコメントを加えました。
なお、2017年以降現在までの現代アートの大勢は、基本的に同じ路線を歩んでいます。2019年の最先端は、当然この傾向の延長上にあります(進化)が、それには多様な応答の仕方があります。ただし今年、突如世界を襲った新型コロナウィルスのパンデミックは、現代アートのみならず歴史を根本的に変動させるカタストロフになるかもしれません。おそらくそうでしょう。それについては、いずれ稿を改めて論じてみたいと思います。
現代アートの世界で、20世紀末からマーケットが上昇の途に就いた。それが経済バブルの拡大に後押しされて、21世紀初頭にアートフェアの急激な隆盛を引き起こした。それを牽引したのは、世界最大のフェアArt Basel(スイスのバーゼルで開催)がアメリカのマイアミで開始したArt Basel Miami Beach(初回は2002年)である。
そのバブル絶頂期(2007年)のフェアと、バブル崩壊以降2010年代にかけて開催されたアートフェアから10年後の2017年のFrieze Art Fair(やはり21世紀の現代アートをリードしてきたロンドン(ニューヨーク、ロサンジェルスでも開催)で行われるフェア)と比較しながら、その二つにどのような違い(変化の証拠)があるのか検討してみたい。
ざっと展示作品を見せるので、作品と会場の雰囲気を掴んでほしい。画像は、以下の通り。
2007年Art Basel Miami Beach(掲載写真:1~30)
2017年Frieze Art Fair(掲載写真:31~62)
さて現代アートの10年間の変遷は、確認できる違いがあるとして、どのようなものか?それは、大きいのか小さいのか?
1980年代以降のポストモダンアートは、モダンアートのほぼ10年周期のトレンドと同じペースで推移してきた。だがそれは、モダンアートのスタイル(戦後のアメリカでは抽象表現主義、ポップ、ミニマル、コンセプチュアル)のように、確たる名称を与えられるほど明確な差異ではない。
たとえば、ポストモダンの原理であるアプロプリエーション(借用)は、プロトタイプ、多文化主義、パスティッシュ(混ぜこぜ)というように分類されるが、それぞれ特定の名前をつけられなかった。なので、ポストモダン=アプロプリエーションのアートを、第1期、第2期、第3期、第4期という具合に時期的に区分してみよう。
第1期、1980年代のプロトタイプ(文字通りの引用)
第2期、1990年代の多文化主義(マイノリティ、プライベート、世界の諸文化)
第3期、2000年代のパスティッシュ(2008年のバブル崩壊まで)
その後、第4期の2010年代はどうだったのか?
この時期区分を背景に、前掲の2000年代のバブル絶頂期のフェアと2010年代後半のフェアを比較することで、注目すべき相違点を浮かび上がらせてみたい。
まず、2008年まで急速に拡大する経済バブルを象徴的に示した2007年のArt Basel Miami Beachから。
バブルが膨張している間は、どんな作品も飛ぶように売れるという至福モードに現代アートはあった。マーケットの多幸感あふれるパラダイスが実現されたのだ(1~23)。そのお祭り騒ぎのなかで、資本主義的な文化の頽廃をあげつらったり、呪詛したり、シニカルに批判する作品までもがマーケットに登場した。そこまでの余裕がマーケットにあったということだが、アートの表現の自由がまだ忘れ去られていなかった健康な時代だったとも言える。(次回中編に続く)
下記、写真1〜23までArt Basel Miami Beachにて。
(文・写真:市原研太郎)
現在は、世界の現代アートの情報をウェブサイトArt-in-Action( http://kentaroichihara.com/)にて絶賛公開中。
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